いつも下がり気味の瞼だが、目の前の光景に大きく目を見開いた。 多勢の天人に両手足を押さえ付けられ、口許には布を当てられている新八と神楽の姿が。 自然と手は刀の柄を握り、二人のもとへ駆け出そうとした時
「やめとけ嬢ちゃん!」
一人の天人に阻止された。
『放して』
「関わんねー方がいーって!アイツ等春雨の連中だよ。 下手に首つっこんで命取られたりしちゃシャレんなんねーだろォ?」
欝陶しい。 心の中で舌打ちし、視線を二人へ戻すと天人に連行されている。抵抗もみせずに。 様子がおかしい二人に疑問を持っていると察してくれたのか否か、未だ腕を掴んでいる天人が口を開いた。
「ありゃクスリ嗅がされたな、可哀相に」
『クスリ…?』
「麻薬だよ麻薬。もう助からねーんじゃ…」
乱暴に天人の手を振り払う。後ろで何か叫んでいるが、弥生の耳には入らなかった。 敵は大勢。奇襲をかけるにも自分一人ではあまり自信はない。新八や神楽を人質にとられては尚更だ。 つけることで様子を伺う事にした。 と、突然ガラスの割れる音がし、そちらへと気をとられる。何事かと音がしたほうへ足を向けるが直ぐさま身を隠す。
「にしても陀絡さん。何だったんでしょーね、あの侍」
『(侍…?)』
「始末した奴の事をいつまでもグチグチ言ってんじゃねェよ。早く引き上げるぞ。こんな汚ェ血がついた服に身を包んでるかと思うと虫酸が走る」
そういえば、まだ銀時が厠から帰ってきていない。 天人達が出てきた所は厠だ。侍、血、始末…その言葉が脳内を駆け巡りうっすらとこめかみに冷や汗が浮かんだ。
『……ぎん?』
完全に周りから気配が消えたことを確認し、厠の扉を開ける。 そこは明らかに戦闘の痕跡があった。何より、弥生の心拍数を上げたのは所々に散らばっている血痕。銀時のものだろうか。
『…いないの?』
返事はない。気配もない。 崩壊している窓へ寄り、そこから下を眺めるが外は夜。 濃い暗闇ばかりが広がり何も映さなかった。
『…』
きっと無事だ。確信はないが、何故かそう思った。 今、自分に出来る事をしよう。 そう決めると弥生は厠を出る。新八と神楽見つける為に、助ける為に。
「あー?何じゃお前」
「オイオイ嬢ちゃん。ココは立入禁止のトコだよォ。字が読めなかっ…」
突如、ドサリと倒れた天人にその仲間は茫然とする。 視線を突然やって来た少女、弥生へと移せばその手には鞘に納めたままの刀が握られている。
「何しとんじゃァァァ!!」
敵が銃に手をかけるよりも疾く、弥生は間合いを詰めるとその顎へ刀を突き上げれば一撃で天人は倒れた。
『おやすみ…』
刀を腰にかけ、さらに奥へと歩を進めるのだった。
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