新八の見舞いの帰り、銀時達は団子屋へ寄るとのこと弥生は一足早く万事屋へ帰ることにした。
動き回ったせいか、いつもより眠気が増す。足を引きずるように歩き瞼は閉じているに近く、前はほぼ見えない。
そんな状態で歩いていたのが災いし、人とぶつかってしまった。


「おっとワリぃ…って、ああ!!」


よろけた弥生を支えたのは土方だった。
驚く土方を気にもとめず、弥生は何事もなかったかのように歩き出す。


「ちょ、待ちやがれ!」


襟首を掴まれ、空気が気管に通りにくい。
ゆっくり振り返れば鋭い目つきをした男が。


「てめェ懲りずにまだ刀持ってんのか」

『……(だれ…)』

「そんなにしょっぴかれてェならウチに来るか」

『家に帰ります』

「お前、あん時もそんな事言ってたよなァ」

『じゃあさようなら』

「さようならじゃねーよ」


さっきより強く道着を引っ張ると少しばかり抵抗をみせた弥生。
このままいけば道着が変形しそうだ。
行くぞ、と弥生に声をかけ一歩踏み出そうとした時だった。


「死ねェェェ土方ァァァァ!!」

「うぉわっ!!」


土方目掛けて刀が横切られた。間一髪、膝をつくことでソレから免れ、襲ってきた人物へ怒声を発する。


「総悟てめェェェ!!どーゆーつもりだコラァァ!!」

「市中見廻りサボって女引っ掛けてるたァどーゆーつもりだ土方ァァ!!」

「ちげェェェ!!!つかサボりはてめェだ!!お前ここの見廻りじゃねーだろっ!!」

「ただコースから外れただけでさァ。そしたら丁度土方さんがナンパしてたんでしょっぴこうかと」

「アメ食いながら話すことじゃねェな」


カラカラと音を出し、わざとらしく飴をなめながら話す青年、沖田総悟。
彼の腕には駄菓子屋の袋がぶら下がり飴の棒やガムが覗いている。


「大体なァ、俺がナンパなんてくだらねェ事するワケねーだろ。コイツの腰見てみろ」


沖田の前に弥生を突き出す。と、土方は目を大きく見開いた。
弥生の頬には赤く短い線が刻まれ、そこからは微量ながら血が垂れている。どうやら刀の先が掠めたらしい。
にも関わらず本人は立ったまま寝るという器用なことをしていた。


「あーあ。土方さんが避けるからでィ」

「俺のせいかよ!!つーかオメーも何寝てんだァァ!!」


揺さぶられたことで、膨らんでいた鼻提灯がパチンと割れる。と、弥生はおもむろに手を頬に当て、目の前に持ってくると赤い液体が指についていた。
寝ぼけ眼で暫く見つめた後、ぽつりと一言。


『…いたい』

「遅ェェェ!今更かよ!」

「ワリィ事しましたねィ土方さんが」

「俺じゃねェてめーのせいだろーが!!」

「いや、でも土方さん。こういうキレイな顔に傷とか…なんか燃えませんかィ?」

「そう思うのはてめェだけだこのサディストが」


弥生の顎を持ち上げ、ニヤリと黒い笑みを見せる沖田。そんな彼に土方は深い溜息をおくった。


「それにしても何でィこの刀。紐だらけじゃねーですか」

「どーなってよーが刀は刀だ。取り上げろ、総悟」


腰の刀へ目を落とし、柄を握るとチラリと弥生を窺う。
抵抗をみせるかと思ったが、そんな気配は全くなく、じっと様子を見ているだけ。
疑問に思いながらも引っ張る。しかし、刀は弥生から離れなかった。


「あ…あれ」

「?どーした」

「抜けやせん…」

「あァ?オイ、ふざけんのも大概に…」

「ホントでさァ」


冗談だろ、と今度は土方が弥生の刀を握る。だが沖田の言う通りどんなに力を入れようが刀を抜くことが出来なかった。


「おま…どーなってんだこりゃァ…強力接着剤でもつけてんのか?」

「情けねェ…刀一本も抜けねェとは」

「おめェもだろ」

『…もういい?』


欠伸をしながら聞く弥生に二人は顔を見合わせる。
刀を取り上げる事が出来ない。しかし見逃す訳にもいかない。
ふらりと歩き出した弥生の腕を慌てて掴むと面倒臭さそうな顔をした。


「とりあえず屯所まで来い。刀のことはその後だ」

「取り調べなら俺に任せてくだせェ。」

「そんな黒い笑み浮かべてる奴に任せられるか。何する気だよ…」

「お、トシ、総悟。お前ら見廻りはどうした?」

「近藤局長」


近藤と呼ばれた男はお妙のストーカーだった。沖田は弥生の肩を掴むと近藤の方へと向かせる。


「違法者でさァ」

「あっ、キミは万事屋と一緒にいた…」

「近藤さん、コイツと知り合いかよ」


土方の言葉にちょっとな…と濁す。と、不意に目が弥生の頬にある傷へととまる。








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