銀時は屋根の修理を手伝うべく出張。新八と神楽は買い出しに出掛け万事屋は弥生一人。 コクコクとソファーでふねこいでいると誰かが帰ってきたのか、玄関から物音がしてくる。 買い出しに出た二人だろうかと弥生は目を開けた。
『新八…メロンパン…』
「新八じゃなくて銀さんでした〜」
『…仕事は?』
「んーーー終わった」
トスンとソファーへ座る銀時に弥生はどこか違和感を覚える。それにさっきから鼻孔につく匂いが気になる。
『…ぎん、』
銀時の目の前に立てばきょとんとした顔で見上げてくる。 しばらくじっ、と銀時全体を見回していると見られている人物は頬を緩ませた。
「んだよ弥生〜そんな見んなって、照れんだろォ?あ、もしかして俺に惚れちゃいました?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべおどけるように言う。 が、弥生は銀時に答えず足の間に片膝をつき、ソファーの背もたれに手をかけると顔をよせてくる。
「お…おいおいどーしちゃったの弥生ちゃん?寝ぼけてんの?」
いつもと様子が違う弥生に戸惑いを隠しきれない。
これは、どういう事なのか。
考えるよりも先に、弥生の腰と頭に手を回していた。 サラサラと指の間を滑る髪が気持ち良いような擽ったいような。 そして手に力を込め引き寄せようとした時、突然肩から全身にかけて激痛が突き抜けた。 あまりの痛さに涙目で肩を見れば、そこには弥生の手が置かれている。
『ケガ…どうしたの』
「けっ怪我ァ!?いやいや、俺そんなもんしてな…っ!?」
また肩から痛みが広がり、思わず雄叫びをあげる銀時へ弥生は再び尋ねる。
『どうしたの』
「ちょ、おま、とりあえず手ェ退けろ!言うからァ!」
素直に弥生は従い、銀時から離れると向かいのソファーへ腰を下ろす。 傷を覆う包帯は丁度服に隠れていたため、銀時はバレないと思っていたのだが。 ふぅ…と小さく息を吐くと一心不乱に見つめてくる弥生へ、へらりと笑顔を見せる。
「心配いらねーよ。おめーが思ってる程大したモンじゃねェ」
『斬られたの…?』
「お前はいつ俺の傷見たんですかァ?なんで分かったの」
『…なんとなく』
「なんとなくで分かってたまるか。アレか、透視能力でも持ってんのか」
『大丈夫なの?』
「だァから、大したことねーって」
『そう』
微笑と共にそう答えると弥生はソファーへ寝そべる。 視界が暗転していく中、ソファーの軋む音に再び目を開く。 映ったのは天井と、自分を覗き込む神妙な面持ちの銀時がいて。
「おめーよォ…さっきのアレ、」
手を伸ばすと寝ている弥生の髪に触れ
「冗談でもあんなことすんなよな」
そのまま頬を撫でると
「期待しちまうだろ…」
消え入りそうな、微かな声で囁くと弥生の唇をそっと指でなぞった。 と、バサリと何かが落下した音に銀時と弥生は目を移す。 入口には買い出しに行っていた新八と神楽が言い表せない表情で二人を凝視していた。
「よォ。おめーら何つっ立ってん…」
「「何してんだてめェェェェェ!!!」」
「ぶフォっ」
二人の飛び蹴りを顔面で受け止めた銀時の体は自身の席へと衝突する。 顔の痛みに浸ることなく、今度は首を掴まれ激しく前後に揺さぶられる。
「アンタ弥生ちゃんの寝込みを襲うとはどーゆーことだァァァァ!!」
「ちょ、オイ、俺今肩怪我してんだって!傷口開いたらどーすんの!?」
「嘘ついてんじゃねーぞ天然パーマがァァ!!」
「嘘じゃねーって!!つか、おめ…苦じっ…!」
『新八…メロンパン頂戴』
「弥生ちゃん。ウチにきなよ、此処危ないから」
「アイツ侍でも何でもないネ。ただのケダモノアル」
しばらくの間、自分を見る新八と神楽の目が冷たかった事に心を痛める銀時だった。
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