三日間という長い取り調べを経て、ようやくテロリストの嫌疑が晴れた万事屋一行。しかし納得いかないのか怒りをぶつけるように大江戸警察所の看板を蹴る銀時。 さらには放尿という嫌がらせをしようとズボンに手をかけている。それに乗る神楽は嘔吐を誘おうと口に指を突っ込んでいた。 そんな二人に付き合ってられないと新八は先に帰路につくことにする。その後ろを弥生はついていた。
「それにしても良かったね弥生ちゃん。これでもう役人の人とかに声かけられても大丈夫なんじゃない?」
警官から渡された書状のようなもの。それは刀を所持する許可証だ。 弥生から刀を取り上げようにも何故かその刀を持つことが出来ず、仕方なく許しを得たしだいだ。
「じゃあ弥生ちゃん気をつけて帰ってね。僕これから行く所あるから」
『行くとこ…?どこ』
「え?いや、ライブに行くんだけど…」
『私も行く』
「弥生ちゃんも?じゃあ一緒に…って、ええぇぇぇぇ!!?」
『ライブて何』
「つか、えええええ!!?どーしちゃったの弥生ちゃん!寝るんじゃないの?このまま帰って寝るんじゃないの!?」
『寝る…ライブ行ってから』
茫然と立ち尽くしている新八に早く、と促し先を行く弥生。 どういう風の吹き回しだろうか。そう思わざるをえない新八は急いで弥生の後を追い掛けるのだった。
*****
人気沸騰中のアイドル寺門通の初ライブ。 脱獄犯の指示のもと、銀時、神楽がたどり着いたのはその会場。 必死で刑務所を抜け出した理由がアイドルのためだということに呆れた銀時は帰ろうとすると、ある青いハッピの団体に目が止まる。 それらを仕切るよく知る人物にも。
「オイそこ何ボケッとしてんだ声張れェェ!!」
「すんません隊長ォォ!!」
「オイ、いつから隊長になったんだオメーは」
「俺は生まれた時からお通ちゃんの親衛隊長だァァ!!」
いつになく強気な新八。だが質問の主が銀時と気付くと普段通りの反応を示す。 ふと、新八の足もとへ視線を落とすと同じようにハッピを着用し、おつうと書かれたハチマキを額に巻く弥生が両耳を塞ぎ鼻提灯を膨らませていた。
「何オメーも影響されてんだァァ!!」
『新八が着ろって…』
「お前俺の言うコト聞かねーくせに新八の言うコトは聞くのかコノヤロー」
『だって隊長命令は絶対だって皆が…』
「つか、なんでこんなとこいんの?」
『ライブってうるさいね。もう二度と来たくない』
純粋にライブというものを知りたかった弥生。興味本意で来てみれば想像を絶する熱気と盛り上がりに顔をしかめるのだった。
「ちょ…お前なに弥生ちゃんのハッピ脱がしてんだァ!」
「弥生ちゃんは僕達親衛隊の一員だぞォ!」
「マネージメントなんだぞォォ!!」
「うるせェェェ!!弥生がんなめんどくせーことすっかァァァ!!」
騒ぎ出した親衛隊に向かってハッピとハチマキを投げ付けると弥生の手を取り、出口へ向かう。するとライブ中出歩くなと前からやってきたお通のマネージャーに注意され、新八には締め出しとくと言われた。 新八の言葉に反応した銀時はやれるもんならやってみろと前髪を掴んでいる。そんな中、女は一人の男に目が止まる。その男は銀時が連れて来た脱獄犯、そして彼らは元夫婦だった。
喫煙所にいる二人の様子は、あまり穏やかな感じがしない。 一服終えた彼女が会場へ戻った後、頭を垂れている男の隣に二人は座る。
約束をしたのだと言う。
音程が定まっていない歌声の、幼い頃のお通に。 彼女の夢である歌手になれたら百万本のバラを持って一番に見に行くと。 忘れているだろう。十三年前の話だ。それにお通は自分に会いたくないだろう。人殺しの親父なんぞには。 今手元にバラの花束はない。約束は果たせそうになく、諦めて男は帰ろうと立ち上がった時、銀時を呼ぶ神楽の声が。
「どした?」
「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れ出してポドン発射」
「普通にしゃべれ、訳わかんねーよ!」
「いや、あの会場にですね天人がいたらしくて、これがまた厄介なことに食恋族…興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」
神楽の話を聞いた男はごみ箱からビニールの袋を掴むと会場へ一目散に駆けていく。
「…弥生、神楽 ちょっと付き合え」
一人一輪。時間が限られた中、見つけられた花の数は全部で三輪。 それらしくするもやはりどこかみすぼらしい感じがするがそれが精一杯だった。
会場では新八を先頭に親衛隊が体を張ってお通を護っていた。 いくら図体がでかい天人でも多人数相手では部が悪い。銀時達が助太刀に入れば呆気なくそれは倒れた。
「おっさん」
舞台で座り込んでいるビニール袋を被った男へ銀時はそれを投げ渡す。 花束とは程遠いタンポポの花を。 後は愛情でごまかせと会場を出る銀時達。 その後、あの親子がどんな話をしたかは知らない。だが、男はまた約束をしてきたらしい。 今度は堂々と胸はって会いに行くと。
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