※ ほんのり下品です



 風呂から上がって暫く、そろそろ寝るかなんて思ったときスマホの通知音がした。この時間に俺に連絡を寄こす人間は限られる。一人はカナだけど、さっき電話で話したとき「眠いからもう切る」とか言ってたし可能性はゼロに近い。となると、思い当たるのはもう一人の方。
 開いてみれば予想通りナオさんから、俺へ向けたというか俺らへ向けたメッセージ。相談所のグループを開くと“牧を喜ばせるにはどうすればいいと思う?”なんてドキッとする質問内容に眠気が吹っ飛んだ。
 “もしかしてもうそこまで進んだんスか?”なんてつい送ってしまいそうになったけど、なんとなく躊躇した。知ってる先輩、それも憧れの先輩たちのそういった事情を知るのは少しだけドギマギする。ここは武藤さんや神さんの反応を見てみるかとだんまりを決め込むと、見事に誰も返事を返さない。既読はついてるのに。だよなぁ……そりゃそこ疑うよな。
 ナオさんがなんとなしにこういう内容のものを送ってくるということは、恐らく俺の頭にあるような展開にはまだなってないんだろうけど、万が一ってことがある。なにせずっと前から想い合ってたのがやっと実ったんだ。俺なら付き合って数週間で我慢できなくなる自信がある。
 結局、話の続きは神さんの提案で明日の昼休みということに。聞くのが楽しみなような少しドキドキするような、不思議な気持ちでその日は眠りについた。

***

 「もうシたんですか?」という神さんの直球すぎる質問を受けたナオさんのリアクションで、とりあえずドキドキ展開にはならなそうだなと少し安心した。
 いつも余裕そうな牧さんを逆にドキドキさせたいし、喜ばせてあげたいというナオさんの必死な訴えに神さんや武藤さんは呆れたり苦笑いしてたけど、その気持ちが俺にはよーく分かる。思わせぶりなカナに毎回ドキドキしたりムラっとしてるのは主に俺ばっかなような気がするから、ナオさんとはこういうときめちゃくちゃ話が合う。
 そして話はどうすれば男がキュンとするのか。俺ならいくらでも案を出せるけど、相手が牧さんとなるとちょっと威力が足りないような気がして言葉に詰まる。ナオさんが押し倒したり誘ったりすれば間違いないんだけどなぁとも思ったけど、今はキスをされるだけでいっぱいいっぱいらしいからそれはもう少し先の話になりそうだ。俺がカナの言動一つ一つにドキドキするように、ナオさんもきっと牧さんの何気ない言動一つ一つに動揺してるんだ。
 というか、俺もたまにはやり返したい。何をすればカナは恥ずかしがったり俺にドキドキしたりするのかと頭の中でぐるぐる考えていたとき、神さんの言葉に体が反応した。

「……ユニフォーム着てもらったときは、さすがに言葉を失ってドキドキしましたね」

 ものすごい速度で回転し始めた俺の脳内映像はとてもじゃないけど他のやつに見せられない。俺のユニフォームを着てるカナなんて、そんなの襲ってくれと言ってるようなもんだ。
 この間セックスした翌日、なんだかんだ恥ずかしがってるレアカナを見れてめちゃめちゃいい気分になったし、ソレ系のことならさすがに少しは恥ずかしがるんじゃないか? なんて、真昼間から邪な考えが止まらない。よしっ、と気合をいれたあと「ほどほどにね」なんてナオさんに言われ、その場はお開きになった。
 




「いや、着ないけど」

 考える間くらいあってもいいと思う。授業と授業の間、短い休み時間でお願いした結果は見事なまでの撃沈。なんの悪びれもなくそう言われてしまっては言葉が出ない。

「いつかでいいから」
「あぁ、じゃあいつかね」
「約束しろよ」
「はいはい、約束ね」
「〜〜っ、絶対ぇ破るやつだろ!」
「わ、凄い。よく分かったねノブ」

 よしよしと頭を撫でてくるカナは完全に俺をからかって遊んでる。やっぱシミュレーション通りにはいかないようで、着替えるからさっさとあっちに行けと追いやられた。あ、そうか次体育だ。
 離れる直前、シャツのボタンを外しはじめたカナの首には数日前につけた俺の痕がまだうっすら残ってた。結構残るもんなんだなぁなんてぼんやりしてると、そういう時のあいつの可愛さを思い出してちょっと我慢できなくなってくる。やっと痛がらなくなってきたし、ちょっと趣向を凝らしたら絶対燃えるのに。

 そして、着替え終わった女子の群れのなかにいたカナを見てびっくりした。今日は午後から冷えるってお天気おねーさんが言ってたのに、ジャージを忘れたというカナは一人だけ肌の露出が多い。
 風邪でもひいたらどうすんだよと俺のを羽織らせると、数秒後「ノブが寒いだろうから、大丈夫」なんて珍しく優しい言葉をかけて突っ返してきた。

「いや、おれ体温高ぇし。カナが着とけって」
「まぁ……身をもって知ってるというか、そんなこと誰よりも分かってるけど」

 クラスメイトから「追いはぎじゃん」と笑われたけど、別に俺が好きでしてることなんだから追いはぎにはならねぇだろ。
 そのあとも何故かギリギリまで俺の好意を受け取ろうとしなかったカナに痺れを切らし、無理やり羽織らせるとやっと観念したのか腕を通しはじめた。そしてそこで初めて気がついたけど、これはもしかしたらすげぇヤバイのでは。
 その予想は見事当たってしまい、袖や裾の長さがカナの小ささを強調してるし、ダボダボした緩さは可愛さに拍車がかかる。……やばい、襲いたくなってきた。
 「大きい……」とかぼそっと呟いたのが率直な感想だってことは分かってるけど、この前シたばっかだし、さっき俺の脳内では彼ユニで淫らな姿になってたカナが確かにいたわけで、どうしても違う意味に聞こえて頭を抱えた。
 この前、いつも必死で抑えてるんだなんて言った手前申し訳ないけど、それが限界値を突破する瞬間というのは突然訪れたりするわけで。

「カナ、ちょっときて」
「え? ――って、ちょ!」

 クラスメイトたちがわらわらと体育館へ向かうのを確認したあと、誰もいなくなった教室にカナを引っ張った。死角になる場所に追いやって小さな唇に自分のを押しつけると少し抵抗されたけど、そんな力で押されても正直痛くもかゆくもないしむしろ余計興奮してくる。

「きゅ、急に何!?」
「……彼ユニもいいけど、彼ジャーってのも悪くねぇなって」

 前につけた痕と同じ場所に唇を這わせるとカナの体がビクンと跳ねた。俺のジャージを着てるせいか、いつもみたいに胸いっぱいにカナのいい匂いを感じることはできないけど、長くてふわふわの髪が揺れるたびその甘い香りが俺のと混じって、なんかやらしい。

「なぁ」
「な、に」
「俺のジャージ着てちょっとキュンとしたりする?」
「っ――、なに言ってんの!?」
「え、だってなんか大人しいし。セックスしてるときみたいに目うるうるしてんのかわいーから」

 目を見開いたカナの頬が少し赤い気がする。こんな顔してるのを教室で見るのは初めてだったから、つい俺までドキっとする。今更だけどなんかイケないことしてるみたいで。

「俺の匂いとカナの匂いが混じるのって、そういうときじゃん」
「なんでそういうこと平気で言えるの?」
「平気じゃねーから今襲ってんだけど……。あぁ、もしかしてジャージ突っ返したのってそれが理由?」

 何気なく口にしたそれはどうやら図星だったようだ。その証拠に、憎まれ口すら叩かなくなったカナは視線を逸らして少し不機嫌そう。だけどそんな顔すら可愛いんだからそりゃあ止まれるはずもなく。もう一度鎖骨のあたりに顔を近づけると「そろそろ行かないとまずい!」と肩を押された。

「わかった、じゃあこれだけさせて」

 顔を埋めてた鎖骨付近に思い切り噛み付いたあとちゅっと音をたてて吸い付く。そして最後の仕上げと言わんばかりにペロリと舐め上げたら小さな声が頭上から聞こえた。あと数分で始まる体育の授業が憎い。

「これでジャージ突っ返せなくなったろ」

 少なくとも体育の間くらいカナの頭ん中を俺でいっぱいにさせたかった。
 そんな今回の作戦はどうやら成功したらしく、カナは放課後までしばらく俺と視線を合わそうとしなかった。それはそれで寂しいんだけどたまにはそんな日があってもいいだろう。