「信じらんない」
「うるせー、ケチ」

 ファミレスに入店してからものの数十分で早速言い合いが始まる後輩二人。ここに来る道中も、俺の後ろで何やら賑やかにしていたというのにまったくよく飽きないものだ。

「一口横取りする前にちゃんと声かけなかった信長がよくないな」
「ほら、神さんもそう言ってる。清田のアホ」
「あとでデザートくらい奢ってやりなよ」
「ぐっ……」

 こうしてこの二人のやりとりに終止符をうつのはいつも俺や牧さんの役目。入部してからずっとこの調子なのだからさすがに慣れてしまった。
 ドリンクバーのおかわりを取りに行ってる僅かな時間で、あっという間に別の話題で盛り上がっているのだから本当に相性のいいコンビだと思う。

「……じゃあ、俺はそろそろ帰ろうかな」
「あ、じゃあ私たちも……」
「二人はまだゆっくりしてなよ。信長に奢ってもらうんでしょ?」
「あー、まぁ、また今度でも……」

 目が泳ぎ出すのを見て吹き出すのを必死でこらえた。数週間前スポドリをつくる彼女に信長がこっそりキスをした決定的瞬間を目撃してしまってからというものの、必死で隠している様子が申し訳ないけど面白い。牧さんに「付き合っているものだと思っていた」なんて天然で見抜かれているのだから、どのみち時間の問題ではある。

「邪魔しちゃ悪いしさ」



 神さんがさっきまで使っていたコップがじわじわと汗をかいていく様子をぼーっと見つめること数分。振り絞った私の声は震えていた。

「信長のアホ」
「ちげーよ! 神さんがスゲーんだって」
「嘘。だって今日あんた三回も頭ぽんってした。絶対に信長のせいで気づかれた」
「それを言うなら練習中すげー視線感じるんだけど、あれは気のせいなのかよ?」

 テーブルの下で握られていた掌がじわりと汗ばむ。アホな猿のくせにそういうところ気づいてるのは卑怯だと思う。だいたい神さんがいる時からずっと手を繋いでくるのも本当に心臓によくない。

「自惚れ猿」
「本当かわいくねーやつ」

 ならこのがっしり握ってる右手を離したらどう?と、思ったけれど、それは口にしなかった。
 お世話になってる先輩に気づかれていた気恥ずかしさで私の頬は未だに熱を持っているというのに、横にいる男はノー天気にメニュー表を開き始める。

「……ほんとに奢ってくれるの?」
「……さーん、にー」
「パフェ。チョコの」
「はえーなオイ」

 二人きりになったときの信長は、なんだかいつもより少し大人しくて調子が狂ってしまう。悔しいから言わないけど。
 バスケの話、クラスの友達の話、昨日のテレビの話。たわいない話をしている間にきたお目当てのパフェは部活終わりの私には極上の品だ。口の中で甘く溶けていくチョコレートアイスを堪能していると、横から熱い視線。

「…なに」
「一口ぐらいくれよ」
「…その口はなに」

 頬杖をつきながら「あ」と口をあける信長の頭を今すぐ叩いてやりたい。天然なのか狙っているのか。つい恥ずかしがってしまう私をおちょくっているのか。

「手が塞がってんだからしょーがねーだろ」

 ぐっと右手に力をこめて笑う猿の口に、生クリームとアイス、そして前に苦手だと言っていたミントの葉を勢いよく突っ込んで「ばーか」と言ってやるのが精一杯の反撃だ。


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