椅子
八木×逆叉

 さらさらと黒糸の髪が春の嵐に掻き乱されて揺れていた。首を撫でる襟足が八木の肩に凭れて抵抗もなく、かと言ってされるがままとは程遠いところで、八木を椅子か何かのように身体を預けていた。
 季節外れの古びた遊園地は閑散としており、二人の他誰もいないようであった。吹き抜ける早春の風は肌寒く、また平日の夕飯時をとっくにすぎたこの時間、いい子でなくとも家路に帰る足が早まるだろう。
 前にこの悪趣味な隣人が他愛ない自慢話に興じたときは、大層肝を冷やしたものだ。
 俺は世界で一番いい椅子を持っているよ。
 インテリア好きの伊達男が目を丸め、遅れてその椅子の詳細を彼にせがんでいた。八木はそれを背中で聞きながら、彼が、逆叉が、のらりくらりと交わすのを平然な顔を保っていようとした。
 逆叉のせせら笑いが響く。
 感じる背中に冷たい汗をかく。
 八木の世間体も、プライドも、この緊張した背筋を伝う冷たい汗も、全て彼次第なのだと改めて体感した。

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end.

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