08

母校との差が大きいのは何も敷地に限ったことではなかった。
別段私は高校時代、どこかの部活の応援をしに行ったり、練習を見に行ったりしたことはない。だからどこが強かった、とか弱かった、とかそんなことは詳しくはない。
詳しくはないが、ある程度、たとえば都大会に出られるだとか全国まで行けるだとかそういう話での強弱は噂が噂を呼んで勝手に耳に流れてくるもの。
その中でテニス部が強い、という印象はないものの、弱いとも伝わっては来ていなかった。所謂中の中。ごく平均的な技量だったと思う。
だからこそ、だからこそ、だ。目の前に繰り広げられているテニスという球技が本当に同じ「テニス」なのか目を疑いたくなった。

「お!佳菜子ー!」

パチリと目が合うと即座にこちらに向かってくる彼こと私をここに呼び出した重宝人。

「ほんとに来てくれたんだ!」

続いて佐藤さんに言わせるところのひつじくん。

「こいつか?お前らが言ってたやつは」

と、誰だろうか。威圧感と俺様感に包まれたまるで絶対王政主義国の王様のような威厳を放つ人。とても高校生には、年下には見えない。
萎縮してしまうのは仕方がない。男子高校生ってもっとこうガキ臭さがあったと思う。大学にだっていないよ、と思っていたら目が合ってしまった。

「…………」

何故か異様な空気が漂う。

「お前、名前は?」

「浅井、佳菜子ですけど…」

ああ、もう、助けて佐藤さん!
叫び出しそうなくらい圧倒される自分。周りの声なんて何も聞こえなくなってしまうくらい、目の前の男に神経を集中させられてしまう。
視線を反らすことなくジ、と見つめていると威圧感以上に端整な顔立ちの持ち主で、どこか日本人離れしていると感じた。綺麗という言葉がしっくりくる人はなかなかいない。稀な人に出会ったものだ。
コンビニアルバイトの縁ってすごい。

「どうしたんだ?跡部」

「……いや、なんでもない」

私の名前を聞くだけ聞くと踵を返して元の位置(きっとテニスコートのどこか)に戻って行った。変な人だなあと思ったのは心にしまっておく。

今日は休日だと言うのに生徒数がやたらと多いのはここが私立だからか。テニスコート周りに設置されたフェンスには制服を着た女子生徒がごっそりと集まっている。
そんな中私服な私は場違いらしく、ちらりちらりと視線が刺さる。何ともいたたまれない状況。

「あの、がっくん、今日はもう」

帰っていい?そう聞くよりも早く中入れよ!と簡易的に作られたドアをさす。
いやいや私部外者ですから、ここの生徒でもないですから、と強く首を振って訴えるが聞く耳を持つような子達ではないことを私は既に体験済みである。
せめてもの救いとして彼ら(がっくんとジロー)よりもずっと年上を敬うことを心得ているであろう、ついさっき扱いに感動した忍足くんに助けての意味も込めて視線を向けてみると…。

「せっかくやし、近くで見て行きません?」

君までそんなことを言うんだなんて…!
私の希望はガラリと音を立てて崩れ落ちた。

「ほら、佳菜子ちゃん早く早く〜!」

結果としてジローに腕を引かれ、未だちくりちくりと刺さってくる視線を受けながらとうとうコートへと入ってしまう。
部員からも誰この人という視線。いたたまれない、なんともいたたまれない。大学生の威厳も何もないじゃないか、私、しっかりしろ、と自分に叱咤するがそれは全く効果のないものだった。近頃の高校生には敵わないなあ。

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