04

ビリリ。ボトッ。
そんな音と共に肉まんが5個、地面に落ちた。ああ、やってしまった。愕然としながらも長年の経験(と言っても3ヶ月)から焦るなと自分に言い聞かせ冷静に対処する。つまりは拾ったと言うこと。
問題はここからなのである。空っぽになった保温機の前に立つ私は肉まんの補充をしようとしていたのだが、袋へ加える力が強すぎたようで少しだけ裂いたビニール袋はあれよあれよ端っこまであっという間に到達してしまった。
今このコンビニには予備の肉まんがない。何を間違えたが一袋しか残されていなかったそうだ。
しかし、まあ落ちてしまった肉まん。洗うわけにいかず、言ってしまえば捨てるしかない。しかし目の前には空っぽ保温機。どうしたものか。

「佐藤さんーーー」

呼んでも来てくれないのが佐藤さん。なんでこんな時にトイレ行ってるんだあの人は。しかも長い。これは大便とみた。
幸いなことに今はお客がいない…と思っていたら軽快なメロディと共に入ってきた。それも金髪。まっすぐレジに来るとチャリン、とカウンターにお金が置かれる。
ああ、嫌な予感。

「肉まん、一つ」

「あー…」

心の中でこんなときになんてタイミングの悪い客!と地団駄を踏む。
が、それを表に出すわけにもいかず、一先ず帰って頂こうとお決まりの台詞で繋げる。

「申し訳ございません。只今品切れとなっておりまして…」

「これから温めるの?べつにいーよー待ってるから」

は?何この客。
おそらく私の手元にある落とした肉まんを見てのことだとは思うが、品切れと言ったのだ、私は。これから温めますではない。品切れ。このコンビニにはもうない、と言うこと。
買いたいならば他に行け、とそう言う意味も含まれているわけで。コンビニなんてここだけじゃないんだからさっさと他に行けば良いものの、ウロウロと店内を彷徨う金髪頭。
さて、何と言って帰って頂こうか。

「あの、お客様?」

「ん?」

「先程も申し上げた通り、現在肉まんは品切れの状態でして、大変申し訳ないのですが別の品をお選びいただ…」

「でも君手に持ってたじゃん」

「これはお売りできる商品ではなくですね」

「なんでも良いから早く温めてくんない?肉まん食べたくて来たんだから」

「は、あ?」

あ、しまった。と思った時には既に遅く、私の口からは今まで心だけに留まっていた言葉が出ていた。
何この我儘な客、と。食べたいなら他に行けばいいでしょ、と。感情が確かに露わになっていたと思う。ほんの一言に。

「俺さ、お客なんだけど」

相手は金髪。つまりヤンキー。声のトーンが一段低くなった。これは殴られるかもしれない、仲間を呼ばれて店内で暴れられるかもしれない。
そう思って覚悟した。ぎゅっと目を瞑り、申し訳ございません。と謝りながらこれから来るかもしれない痛みに耐えようとした時だった。

「まあ、いいや。俺が他のとこ行けばいーんだもんね!」

明るい声。パッと顔を上げればへらりと笑った顔。
唖然としていると今度来る時は温めといてね。と言葉を残して出て行った。
何が起こったというのか。
私は佐藤さんが戻ってくるまでの間(と言ってもほんの1、2分)その場に立ち尽くしていた。頭の中が整理出来ずにいたのだ。
あんたなにやってんの?と佐藤さんに変な顔をされ事情を説明すると、軽く怒られはしたが、落ちた肉まんをどうやって誤魔化そうかと証拠隠滅談義に入ったから安堵の溜め息をついた。(もちろん、心の中で)
こうして今日も何事もなくバイトを終えられたと思うことが出来る。終わり良ければすべて良し、思考だ。

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