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がらがらどしゃーん。なんて音を立てながら男が一人、店内に入ってきた。つまりは入り口で転び、そのまま目の前の棚に頭をぶつけ、その衝撃で棚にあった物が全て床に落ちた。ちなみにそれは今500円以上買うと引けるくじの景品達。
せっかくさっき綺麗に並べたのに、そんなことを思いながら大丈夫ですか?と盛大に転んだお客さんに声をかける。
どうしたらこんなにも大きくコケることが出来るのだろうか、コンビニの入り口で。不思議に思ってドアに視線を向けても特に転ぶ原因に至りそうなものは何もない。しいて言うなら自動ドアが移動するための小さな窪みだ。今までこのコンビニでアルバイトをし続けて来たが、それに躓いた人は誰も見たことがないけども。
盛大に転んで倒れているお客さんに近づいたは良いが返事が返ってこない。もしかして頭をぶつけて気絶でもしているんじゃ…と少し焦りながらもう一度大丈夫ですか、と声をかけたら今度は小さな呻き声が返って来た。ああ、良かった。生きてはいたみたい。
救急車も呼ばなくて済みそう、と勝手に解釈して三度目の正直だとお怪我はありませんか?と声をかけた。

「大丈夫…です」

掠れた声でそれだけ言うと男は立ち上がってそのまま後ろを向くとすぐさまコンビニから出て行った。はやっ。
耳まで真っ赤なその男の後ろ姿を見ながらこれから落ちた景品をまた並べなきゃいけないのか、と思って深いため息を吐いた。
人はあまり来ない割に時給の中々良いこのコンビニ店員のバイト。家からは少し時間がかかるが楽して稼げるに越したことはないと思い即座に応募した。見事受かったのが今から3ヶ月前で、この3ヶ月間特に問題もなく、とんとんと過ぎていたのだ。

「めんどくさいなあ」

ポツリと漏らして落ちた景品を拾い始める。あと3時間。終えたらアイスでも買って帰ろう。そう誓って一つ一つ並べ始めた。


あの男が再び来店したのは私の上がる時間の10分前だった。あと少しで今日の仕事はおしまいだとるんるんな気分でカウンターに全体重をかけながらいると入ってきた一人のお客。
いらっしゃいませーと今日幾度と無く言った言葉をかければ、あれ、と思った。顔は見ていなかったからよく覚えてはいないが確かにさっきの男だ。派手に転んで、派手な音を出して、私の仕事を増やした、人。
一緒にアルバイトをしていた先輩アルバイターの佐藤さんにさっきの凄かった人ですよ、あの人。とちょうどトイレから戻ってきたところで話す。さっきもトイレに行っていて見ていなかったのだ。佐藤さんは興味なさそうにへえ、とだけ漏らした。

バイト終了時間がせまる。あと5分。私はひたすら時計と睨めっこをしていた。早く経て、早く経て、と。カウンター内でストレッチをしながら待てばカチリと時計の針が動き、終了時間を迎える。次の人に引継ぎするため私より長い佐藤さんにお疲れ様でしたと言って、関係者以外立ち入り禁止の場所に入ればちょうど交代する人に会って一言二言交わす。
それでは、と私服に着替え終わった私は店内に出、アイスのある場所へと歩いて行けば帽子を被った男とすれ違った。
あ、転んだ人だ。まだいたんだ。コンビニなんてそう長居する場所でもないだろうに。
買おうと決めていたアイスを取って佐藤さんのいるレジに向かえば今日奢ってあげるよ、と気前のいい田中さんにひょいとアイスを取られテープを貼って渡された。ラッキーって思いながら笑顔でお礼を言って外に出ると寒さが身体を包む。そういえば袋貰うの忘れた。素手で冷たいアイスを持ちながらそう思う。余計に寒さが増したけれど引き返すのも面倒なのでそのまま帰宅した。
よし、今日もバイトおしまい。
疲れたなあと両腕を伸ばしながら歩く足を速めた。

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