09

ここで見学しててー!と言い残すとジローもがっくんも忍足くんも練習へと戻って行った。
確かに彼らのテニスは私の知識にあるテニスよりも数段上をいっていて、目を見張るものはあるが、こういうスポーツごとにあまり関心のない私は十数分見ているだけで興味は薄れていった。
つまりは飽きたのだ。知り合いもほぼいないため好奇な目を向けられ、話し相手もいないこの空間は退屈で仕方が無い。いつまでいればいいのか…ふう、と溜め息をついた時、隣を何かが通り抜けた。

「え………」

がしゃんっと音が聞こえ振り向けばフェンスにハマるテニスボール。

「すいませんっ!!当たったりしませんでしたか…?」

「いや、大丈夫、です…」

背の高い子が走って謝りに来た様子を見ると、この子が打ったのだろう。唖然としてしまったが、超豪速球だった。
きっちりしっかりフェンスにハマ…否食い込んでいるボールからも分かる通りかなりの力が加えられているのだろう。当たったら確実に痣になっていた。ああ、テニスって凄い怖い。

「お前のノーコンぶりは中々なおんねえなあ…」

「宍戸さんすいません……」

「まあ中学の時よりかはマシになったけどよ」

帽子を被った男の子が苦笑しながら長身くんの背中をはたく。長身くんは申し訳ない顔をしながらも帽子くんの言葉に背筋をしゃんとする。
先輩後輩の会話、仕草、その光景に何だが青春を感じた。ごく普通な光景に、私にはもう体験することのない青春。
スポーツには関心ないが、太陽の下汗を流しながら動くというのも良いものかもしれない。

「というか、お前誰かの知り合いか?こんなとこ座って」

一通り長身くんに注意を促し終えると私と目が合う。

「ああ、まあ知り合いっていうか、がっくんとジローに呼ばれて…」

「ふーん。氷帝の生徒じゃねえよな?あいつらの知り合いにしては見たことねえし」

どうやら二人とは仲が良いらしい。ということは遠回しに感じた。
ちょっとばかし私の存在に悩んでいる彼を前になんて言おうか、と悩んで出たのは極々シンプルなもの。

「近所のコンビニでバイトしてるんです、私」

そういえば、この帽子くん以前どっかで見たな。

「バイト…ってもしかして昨日の?つーことは年上か?」

「一応、大学生なので。…て、あ思い出した。君転んだひとだ、入口で」

ド派手に、それも何もないところで転んでいたから良く記憶に残っている。クジの景品を並べ直さなきゃいけなくて少々面倒だった。

「えっ…」

帽子くんも覚えていたのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。余程恥ずかしかったとみえる。
すいません、と聞こえるか聞こえないかの小さい声が発せられ、別に過ぎたことなので気にしないでくださいと伝えると、帽子からはみ出る耳まで真っ赤にして長太郎!と長身の後輩くんを呼んで練習に戻って行った。長身くんはもう一度私にぺこりと一礼して帽子くんの後ろを追う。
高校生はこうじゃなくちゃ。さっき絶対王政の国の王様と対面したあとにこういった純真な反応をする子を見れて心が安らぐ。
そういえばハマったボール取っていかなかったな、とけして勝手に取れることのないだろうボールを引き抜こうと手を尽くすが、女の私の力じゃビクともせず、誰か近くに来たら教えてあげようと誓い早々に諦めた。

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