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「早く入れよ」

「はいはい…」


最近ずっと「俺様の凄さを分かれ」と言われ続け、いい加減相手をするのも億劫になったから仕方なく頷き部室へと嫌々ながらも着いて来た。
だけど着いた先は想像以上の大きさで、けして部室とは言えない建物があり、関わってはいけないと頭で信号が出されたから、逃げ出そうと来た道を引き換えしたが初めて来た所で周りは見たこともない景色で、簡単に言えば道が分からなかった。
当然ながら跡部に引き戻され、再び悪戯にも大き過ぎる建物の前に来た。


「あーあとべ連れ戻して来たんだー!」

「………」


押されて部室に入ると、そこには真っ黄色な髪色をした満面の笑みの男の子が待ち構えていた。
跡部とはまるで正反対の、にこやなか笑みだと私は思う。嫌味たらしいナルシストで自信満々の笑みと天と地の差、月とスッポン程の違いがある。


「おい、何突っ立ってんだ。入れよ」

「…跡部も見習えば良いのに」

「何がだ」


隣を見れば少々機嫌が悪いのか眉間に皺が寄っている顔。
目の前にある天使のような素敵な笑顔を向けてくれる男の子とはまるで違う。少しで良いから見習って欲しい。
跡部が無邪気なんて想像も付かない上に、目の前の男の子のような笑顔を向けられたら気持ち悪いと思うけども。


「なあなあ、おめえなんて名前?」

「あー、天井玲奈です」

「玲奈ちゃんか、俺芥川慈郎!ジローって呼んで!」

「あ、うん」


再び隣を見て溜め息を吐く。さらに跡部の眉間に皺が寄ってしまったが、知らない。
人懐こい笑顔の男の子…ジローだっけ、ジローとは似ても似つかない。私もジローが隣の席ならば毎日楽しいだろうに。…跡部が楽しくないと言うわけではないが。


「頑張れ、跡部」

「何で憐れんだ目で俺を見るんだ、てめえは」


まずは言葉遣いとその上からしか見ない目線、俺様なオーラ、さらには高飛車な笑い方。これらを直すべきだ。
そしてもっと人を労る心を持った方が良い。直ぐに人の頭を叩くのは叩かれる側としてはかなり痛い。


「私は応援しているよ、跡部!」

「お前はもう黙ってろ」


ほら、直ぐそうやって自分に都合が悪いと睨んできかせようとする。実に良くないと思う。
将来は子供に嫌がられる大人になるんだろう。近所の子供達は跡部を見ると避け、そして近所の奥さんには邪魔物、腫れ物扱いをされるんだ…可哀相に。


「玲奈ちゃん、気付いてないかもしれないけどー全部声に出ているよ?」

「え、」


一人将来の跡部の姿に同情していたらジローから天使の笑顔で、悪魔のような事柄を宣告された。
恐る恐る隣の可哀相なナルシスト男を見上げたら、フルフルと肩を震わしている。


「寒いの?」

「怒ってんだよ!」

「何で?」

「お前なあ…」

「あははは、玲奈ちゃん面白いC〜」


跡部は疲れ呆れたように溜め息を吐き、天使のジローはお腹を抱えて爆笑している。私はそんな二人の様子が訳分からず、だから特に台詞を発しないで黙って二人の様子を見ていた。


「もういい、練習するぞ。慈郎は先に行ってろ」

「えーもうちょっと玲奈ちゃんと話したいC」

「部活が優先だ」

「ちぇっ、じゃあ玲奈ちゃんまた後でねー!」

「ああ、うん。またねジロー」


最後まで天使の笑顔ジローは笑って部室を出て行った。顔の筋肉が硬直しちゃうんじゃないかと思うくらい。
日常生活でも常に笑っているんだろうか、初対面の私にもあれだけ満面なのだから笑っているんだろうな。


「天井…」

「ん?」

「お前はベンチで座って見てろ」

「えー別に柵の外で良いんだけど」

「外だとお前は帰るだろ」


全てお見通しと言うことか。既に沢山いた女の子達の群れに隠れてしまえば例え帰ってもばれないだろうと思っていたが、実行する以前に自分の行動が把握されてしまっている。
さっきも気付かぬ内に口に出してしまっていたようだし、気をつけないと今後、跡部に全てを読まれてしまう。


「はいはい、じゃあベンチにいるからあんたの素晴らしさってのを披露してよ」

「言われなくともそのつもりだ」


これで適当に見ていれば毎度語られる変な話もなくなるだろう。ナルシストの扱いにも大分慣れてきたものだ。
慣れたくなんてないことだが、昼寝の時間を潰されなくなるのだから良しとしよう。


「あ…おい天井」

「なに?」

「今から俺のこと名前で呼べ、俺様もお前を玲奈と呼んでやる」

「は……?」









(慈郎だけ名前で呼び合うのが何故か許せなく、初めて女に名前で呼んで欲しいと思った)
(相変わらずナルシストは突拍子過ぎて理解出来ない、けど何故か楽しいと思っている自分がいた)
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