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「………」

「………」

「………はあ、」


6校時目の授業が終わり、担任による短い話も聞き流して今日もさっさと帰ろうと席を立った瞬間、担任から一言「今日の放課後だからな」と。

遅刻が多数…毎日のことで、いくら言われても時間通りに来ない私に先生が呼び出した内容は「今日の放課後、クラス代表の代わりに跡部と共に今度行う体育祭の打ち合わせをしろ」と言うものだった。

今日、クラス代表の山田さんは休みらしい。だけど今日中に片付けなくてはいけないことがあるらしく、跡部にも臨時に頼むそうで。


「……はあ、」

「溜め息吐きてえのはこっちだ」


私の反抗も虚しく決定事項となってしまった。それで今までの遅刻、の数回は目をつぶると言われたから仕方ないと言えば仕方ないが。


「……はあ、」

「…いい加減に手を動かせ」

「何で私が書類整理なんか…」

「それはこっちの台詞だ!」


体育祭の打ち合わせ、なんて嘘だ。任された内容は書類整理。中には体育祭関係も含まれてはいるが、大方は入学式についてなど、纏めて言えばただの雑用。


「もう、帰りたい」

「…さっさと手を動かせ」

「もう、疲れた」

「だから手を動かせ」

「もう、やりたくなーい」

「てめぇはまだ何もやってねえだろうが!」


跡部は血管が切れそうなほど叫び出す。そして青筋立てて怒る、そんな漫画みたいな表現が頭に浮かぶ。
若いうちから怒ってばかりいると寿命が縮んじゃうのに。


「何で私が…」

「たく、それはこっちの台詞だろうが」

「…………」

「起きろ」

「…いっ…」


また殴られた。しかも今のは朝より力が強いのか地味に痛い。殴られた部分がジンジンとして痛みが周りへと広がる。
女の子には手を上げちゃいけないと小学生1年生くらいで習わなかったのか。


「……習わなかったの?」

「何がだよ」

「小学生の時」

「だから何がだ」


そうか、習っていなかったのか。何よりも大切なことだと言うのに。
義務教育は担任からの「女の子にたとえ腹が立ったとしても、けして手を上げることのないようにしましょう」から始まるのが普通の教育過程だ。


「あんたの小学校は駄目だね」

「意味が通じるように話せ」

「あ、そういや外部から来てんだよね?ここから近いの?」

「イギリスだ」

「…………?」


イギリス小学校なんて言うところ有っただろうか。イギリスなんて場所は聞いたことない。地域独特の呼び方とか、跡部から見たらイギリスみたいな場所だ、とかそんな感じだろうか。


「何処にあるの?」

「だからイギリスだって言ってんだろ」

「え?」


イギリス、もしかして異偽利守小学校?こんな学校ってあるものだろうか。だけども目の前で眉間に皺を寄せている跡部の顔は真剣そのもので、冗談を言ってるわけではないだろう。
それじゃあここはどういう応対を取るべきか…。


「め、珍しいね!」

「そうか?イギリス行くなんざ珍しくとも何ともねぇだろ」

「そ、そう?」

「留学くらいお前もしたことあるだろ?」

「は?」

「あ?」


跡部から出た「留学」と言う言葉に私は間抜けな声を出してしまった。どうしていきなり留学の話題が出たのか全くもって検討がつかない。
寸前まで異偽利守小学校の話をしていたはずだ。初めて名を知った異偽利…イギリス…?


「ま、さかイギリスって外国の?」

「当たり前だろ?他に何があるってんだ」

「え…あの本名はかなり長い国…?異偽利守小学校じゃないの?」

「あーん?大丈夫かお前」


私は今までとんでもない検討違いをしていたみたいだ。異偽利守ではなく、イギリス。グレートブリテンなんとかって言うイギリス。海外にある、ヨーロッパにあるイギリス。


「あ、ははは」

「何でも良いが早く手を動かせ、時間だけが過ぎてくじゃねえか」

「あ、うん…」


跡部が余りにも真顔でそう言うから私はイギリスの件に上手く突っ込むことが出来ず、沈黙となる。ペン先が机の固さによって高鳴る音だけが響く中、着々と時間は過ぎていった。そして、一般生徒の最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り出したのだった。


「ちっ、今日は間に合わねぇか」

「何に?」

「部活だ、」

「…サッカーだっけ?」

「テニスだ」


大抵はサッカーと言えば当たるのに、テニスか…なかなか予想しずらい部活だ。そう言えば、放課後きっとテニスコートがあるであろう周辺に沢山の女生徒が固まっていたのを見たことがある。何かの集会か、いずれにせよ私には関係ないけど。


「テニス強いの?」

「お前記憶力悪いだろ」

「失礼な…!」

「俺はテニス部の部長だ」

「え、1年なのに?」


すると跡部は深い溜め息を吐いた。しかもそれは私を呆れての溜め息だと見る。失礼じゃないか、と跡部に文句を言おうと立ち上がったら私の台詞は見事に遮られてしまった。


「今なんて?」

「だから明日見に来いって言ってんだよ」

「何で?」

「如何に俺様が素晴らしいかを見せてやるよ」

「嫌だよ、放課後まであんたのナルシストなんて見たくない」


ゴツンとまた頭を殴られた。だから私は思い切りスネを蹴ってやる。苦痛で顔を歪めたけど気にしない。だけど此処にいたら危ない気がして立ち上がったまま回れ右。そのまま教室を出る、もちろんダッシュで。
後ろを振り返れば跡部がかなりの速さで間を詰めている。


「だから何で追うのさー!」

「明日絶対見に来い!強制だ!」


この後数分もしない内に私は捕まり教室へと連行。鋭い視線を向けられながら書類整理を見回りの先生が来るまでさせられた。









(常識もない記憶力もない、こんな変な奴に俺は自分を知って貰いたいと思ってしまった)
(極度のナルシストで朝から煩い奴だけど、話していて悪い気はしない、そう思った)
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