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言って後悔するか言わないで後悔するか。人間必ず一回はこんな選択肢を迫られる場面に陥るだろう。そしてどちらかを選べと言われたら俺は迷わず「言う」を選ぶ。理由?そんなの俺様が口に出して悪い方向に進むわけねえからだ。つまり後悔ってのは有り得ねえ。

そう思っているからこそ、この現状になったわけだが。河原で夕日を浴びながらの告白はロマンチックだとクラスの女共が騒いでいた。玲奈も変わってはいるが正真正銘の女だ。このシチュエーションに何も感じないわけがねえ。
そう思ったのはつい先日。行動に移すことに決めたのは、ほんの数十分前。決め手は、最近妙に仲良くなりつつある玲奈とあいつら。俺は自分でも驚くくらい急激な焦燥に駆られた。

既に沈みつつ有る夕日に照らされながら、俺は真っすぐ視線を逸らさず目の前のこいつを見据える。今まで見たことがないくらい百面相している玲奈を見ていると、思わず頬が緩むのが自分でも分かる。
考えてみりゃ言われ慣れてはいるが、自ら言うのは……。


「景吾、私さ……」


やっと、(と言っても実際に黙っていたのはほんの数分だが)口を開く。妙に歯切れの悪い台詞。合っていた少し視線をずらし、意を決したように言葉を続けた。
この時、瞬間的に俺は何かを悟った。そしてそれを受け止めようとしている。まさか俺様がこんな風に思うとは。ああ、最近は頭がどうかしていやがるようだ。


「思うんだけど、さ」

「ああ、」

「景吾の好きは……違うと思う」

「ああ、………は?」


誰が予想することだろうか。告白した相手にそれは「違う」と否定されるなど。
だけども玲奈の目は冗談を言っちゃいねえ。と言うことは今までの流れを感じ、悩んだ末、こいつはああ言ったんだ。


「私思うんだよ、ラブとライクの違いは何だろうって」

「…………」

「それは極似なるもので、本当は全く別のものじゃないかって」

「……………」

「それでね、」

「おい、」


こいつは話の流れと言うものを理解することが出来ねえのか。この状況でラブとライクの違いについて語る奴が居るか、普通。
俺様が好きだと言ったんだ。それに返ってくる返答は一般的にイエスかノー。躊躇い方から見て、有り得ないことだが恐らくノーだと思った。だけど俺は諦める気は更々ない。これから落としてやる、とでも言うつもりでいたんだ。
だが、この女は断る様子もなくOKするわけでもなく、淡々とした口調で話し出し、この場の雰囲気を一気に崩した。あまりの呆れ加減に、俺の口からは思わず苦笑の意味の笑みが零れる。


「はあ、お前なあ、……それで?」

「私も景吾は好きなんだと思う、多分。でもそれはラブじゃないはずだから…多分。だから景吾も違うんじゃないかと思って」

「多分、だろ?」

「そうだけど……」

「なら違うかもしれねえだろうが」


うーと唸る玲奈に、俺はまた笑みが零れた。
親じゃないが悩む玲奈を見るのは何だか微笑ましい。そして今まで馬鹿だとしか、変だとしか思っていなかった女なのに、こんなにも入れ込んでいる自分に驚愕しかない。
何時からだろうか、馬鹿から可愛いに変わったのは。変から面白いに変わったのは。疲れるから楽しいに変わったのは。


「でも、だって、いきなり過ぎない?」

「そうか?」

「あんた昨日までそんな素振り一度だって……」

「俺様だって予想外なんだよ」


そう言うと玲奈は笑った。
ほら、お前が笑うだけで俺は気分が良くなる。お前の珍回答にも仕方ねえかと思えてくる。どうみても予想外過ぎる。


「それ普通好きな相手に向かって言う?」

「お前に普通なんてのがあったのかよ」


唯一入学式に遅刻した奴だってのに。今思い返すと常識外れな行動ばかりが頭に浮かぶ。第一印象から何から何まで。実際に外れてるんだから仕方ねえがな。


「酷いなー…全く何が好きだよ。景吾、冗談なら……」

「普通じゃねえが、俺はお前が好きだ。こんな冗談なんか言わねえよ」

「……だ、だけど、ライクとラブは」

「違うんだろ?」


すると玲奈はまた唸る。実際は違うが、頭を抱え疼くまる光景が目に浮かぶ。俺は口角が自然と上がっていることが分かった。
ライクとラブの違い…か、良いだろう俺様が直々に分からせてやるよ。


「玲奈、今日はもう遅いから帰るぞ」

「え……」

「返事は今しなくて良い。良く考えてから答えてくれ」


玲奈の有無は一切聞かず、直ぐに携帯のボタンを押し、車を寄越すよう言う。
車が来るまでの時間、一人困惑し続ける玲奈を見て俺の口角が下がることは無かった。
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