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「なあ、彩華」

「………(もぐもぐ)」

「なあ、」

「………(もぐもぐ)」

「おい、」

「………(もぐもぐ)」

「…このチョコやるよ」

「なにブン太?」

文化祭まで後5日に迫った今日、「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」って言う台詞が飛び交う、小さい子供が言えば可愛く聞こえるハロウィンの日。
今日の午後は全て文化祭の、それも部活での出し物についての話し合いの時間に当てられている。
つまり、場所は部室なわけで(元)部長である幸村くんが部員に指示を出している。
そしてお決まりのように隣には机山盛りのお菓子を黙々と頬張る彩華がいる。
しかもこのお菓子は今日1日彩華がクラスの奴らを脅して奪い取ったものだろう。

「お前いい加減食うのやめろよ」

「何で?」

「いや、だって今…」

幸村くんがまだ笑ってるから良いが(いや、笑ってても恐ろしいけど)直視されたは終わりだ。ゆっくり笑って俺の名前を呼ぶ、悪寒どころか北極にいるのかって思うほど寒くなる。冷や汗は尋常じゃなくなるし、俺は何もしてねえのに災難な目に合うのは御免だ。

「なによ、」

「幸村くんの話聞けよ、て言うかお前一応主役だろ」

「残念、私はお菓子を食べるのに忙しいの」

「手伝ってやろうか」

「死ね」

「…………」

低い声で俺を鋭く睨みつけて言うと彩華はもぐもぐと再び口を動かし始めた。
女の言うことかよ。俺だって女子から貰ったお菓子悔いてえの我慢してるんだよ。前に部室でお菓子食ってたら幸村に全部取り上げられたからな。

「あ、そうだブン太」

「なんだよ」

「Trick or treat」

「は?」

「ほら、お菓子。たくさん貰ってるんでしょ」

お前が言うことじゃねえだろ。見ろよ山盛りのお菓子を。更にねだるつもりか。しかも人が貰ったお菓子かよ。

「お菓子なら…さっきチョコあげただろぃ」

「え、あれはブン太が勝手に寄越したんじゃん」

「返せ」

「残念、もう食べちゃった」

「…お菓子はねえよ」

「だから貰ったので良いよ」

「何で俺が貰ったのにあげなきゃなんねえんだよ!」

「ハロウィンに小さいチョコ一個なんて、ブン太は小さくなったね」

「何がだよ」

「心が」

何で俺がここまで言われなきゃなんねえんだよ。彩華には毎日のようにお菓子を取られている。
なのにハロウィンにあげないくらいで「小さい」なんて、彩華の方がよっぽど小さいと思う。

「お前そんなに食ってっと太んぞ」

「ブン太には言われたくない」

「いや、うん俺が悪かった」

色々命が危なかった。その辺に転がっていたシャーペンを持ったかと思ったら先を俺に向けてきやがった。あれはかなり殺気だっていた気がするぜ…。

「仕方ない、お菓子くれないなら悪戯か」

「なんかすっげえ嫌な予感すんだけど」

「幸村ー!ブン太がお菓子食べてるー!しかも私の」

「は?」

いきなり立ち上がって声を上げたかと思ったら色々と指示を出している幸村くんを呼んだ。
しかも全部嘘だろ、悪戯ってレベルじゃねえよ。

「あれ、丸井今なにやってるか分かってる?」

いつ来たのか、瞬間移動かって思う程の速さで幸村くんは俺の背後に。
笑っているはずなのに、今までと変わらずに顔は笑っているはずなのに、声が声色が、かなりご立腹だ。

「文化祭まで時間ないの分かってるよね?」

逆だって、幸村くん。


隣のあいつ


「ブンちゃんトリックオアトリート!」
「…しょうがねえから、これやるよ」
「ん、マフィン?」
「今日家庭科で作った」
「え……食べられるの?」
「いらねえなら返せぃ!」


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