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「は?なんの話し?」

「そんな睨むなって、俺が決めたわけじゃねえし」

放課後、学活が終了するなり早々と席を立ち教室を出ようとする彩華を慌てて止める。
掴んだ手に視線を向け、そして俺を見た彩華の目は不機嫌爆発状態。
だからと言ってこの手を放すことは出来ない理由がある、幸村直々に彩華に伝えるように頼まれたと言う理由が。
そして「何かよう?」と女の割りにドスが聞いた声が耳に届くと同時に、今日は彩華が前々から楽しみにしていたドラマの再放送が始まる日だと言うことを思い出した。
だからこんなに機嫌が悪くなったのか。

「もうすぐ文化祭だろ?部活でも何かやらなきゃいけねえらしくて、テニス部は劇をすることになったんだよ」

「へえ、だから?」

「ヒロイン役が彩華になった」

「は?」

こうして冒頭の台詞へと戻る。
文化祭で劇をやる、当然ながらマネージャーである彩華は部員の一人で3年生ともあり強制参加が原則。
ここまでは彩華だって承知の上だろうし、問題はその劇の主演が彩華だってこと。

「ヒロインって何、劇って何、私は何も聞いてない」

「それは昨日の部活に来なかったからだろぃ」

「昨日は再放送ドラマの最終回だったんだから仕方ない」

最近、今まで全くと言って良いほど興味がなかったドラマに填まり出している。
いや、ハマってるとは言えねえな。1話と最終話しか見ねえから。

「とにかく決まったもんは仕方ねえだろ」

「無理」

「無理じゃねえって」

「誰が決めたわけ」

「………幸村くん」

「……………」

さっきから睨み一本だった表情が少し変化した気がする。流石の彩華でも幸村くんには逆らえないらしい。

「つーわけで、早く行かねえと怒られんだよ」

「劇って何すんの」

「…ロミオとジュリエットだとよ」

「てことは、ヒロインはロミオ?」

「ジュリエットだろ!」

「ああ、そっちか」

初めて聞いたぜ、ロミオをヒロインと言う奴。どう考えてもジュリエットしかねえだろ、うん、ねえよな。

「まさか話知らねえわけじゃ…」

「そんくらい知ってるよ、お菓子の家のやつでしょ」

「それはヘンデルとグレーテルな」

「…………」

知らなかったのか、劇とかに興味のない彩華なら十分有り得ることだとは思うが。だけどこんなんで劇が成り立つのかよ。
只でさえ練習なんてしないだろうし、まだ彩華が知ってる話ならなんとかなったかもしんねえけど。

「運悪かったと思って練習参加しろよ」

「嫌」

「え、」

「そんな訳の分からない劇の練習なんて有り得ない」

「一応有名な話だからな」

「有名だろうとなんだろうとジュミオとロミオットなんてやりたくない」

「ロミオとジュリエットだから」

先が思い知らされると言うか、後々とばっちりで説教されるのはどうせ俺なんだろうな。
関係ねえのに、彩華がサボれば幸村くんが俺に、彩華がやらなければ幸村くんが俺に。
この3年間でアイツが怒られたことは一回もないんじゃねえかってくらい全部俺に回ってくる。
だからこそ、彩華にはしっかりやって貰わねえと後で俺が困る。

「とにかくやらないから、幸村にそう言っといて」

「やんねえなら自分で言えよ」

「いや」

「俺だって嫌だよぃ」

「私は承諾してないのに勝手に決められるなんて、人権の損害だ」

「お前ぜってー意味分かってないだろ」

「だからブン太が代わりに言って」

「何を?」

「幸村に私は文化祭行かないから出来ないって」

「来いよ!」

「もうブン太のデブ!デブ!デブ!」

「デブしか言ってねえよ、それに俺はデブじゃねえ!」

「煩いブタ、もうすぐ始まる時間だから私は帰…………る、」

え、なんだよその間は。
俺は彩華の怯えるような目に嫌な予感がし冷や汗が流れる。
それでも振り向かずには居られない後ろから魔のオーラを感じて恐る恐る後ろを向くと、幸村くんが腕を組ながら立っていた。
それも机一個分と言うかなりの近距離で。

「今日から練習だから時間厳守だって言ってあるよね」

自然と頭が下がった。


隣のあいつ


「あー!ブン太ー!」
「んーなんだよ?」
「ロミオ役はブン太だって」
「え、嘘だろぃ?!」


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