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「おはよう」
「ん、よう彩華」
フェンスに身を預けて、手で扇いでるのは俺と3年間同じクラスの彩華。
手には早朝早々後輩に買って来させたんだろう飲料水を持っている。マイペースという言葉では収まり切らない程、自分の時間を最優先させる奴だ。
「朝から暑いねーアイス食べたい」
「まあ夏だしなー…ってお前遅刻だぜぃ」
今は朝練真っ最中、つまり彩華はマネージャーとして居なきゃいけないわけなんだが、来ない。
一度として朝練に来たことがない。
「別に私は朝練に参加するために早く来たんじゃないもん、だから遅刻にはならないよ」
「来いよ、遅刻でも良いからまずは朝練に来いよ」
「今日は日直だから無理ー」
「お前日直なんてやったことあるのか…?」
いつも相手の奴に全部押し付けて、泣く泣くやっている男子を何人見たことか。
「今日は山田くん休みだから朝早く来てる田中くんに教えて上げようと思って」
「関係ねえ奴に押し付けるなよ」
「関係ないなんて、クラスは皆仲間だよ!」
「そういう意味じゃねえ!」
「仲間はお互い助け合うものだよ、田中くんにはその義務がある!」
「ならお前も助け合えよ」
「私には私のやるべきことがある!」
「………へぇ、」
言ってることは正論みたいだが、ようは面倒だから押し付けるだけだろ。
しかもやることってなんだ、やることって。
「とりあえず、1限目の英語のノート貸して」
「最悪だな」
「私今日当たるの、また1時間も説教なんてやだ」
前回、英語の宿題を(写し)忘れた彩華は1時間ずっと立たされていた。
今回も、となればそれなりの対処になるだろう。
「少しは自分でやる努力をしろって」
「私は忙しいの」
「それはちゃんと朝練に来てから言え」
「学校が遠くて朝早く来れない」
「嘘をつくなよ、お前は俺ん家の隣だろい」
「……ハァ、」
「ため息吐きてえのはこっちだっての」
「だからブン太は………あ、」
いきなり言葉を止め、目を大きく見開く。
どうしたんだと思って、彩華の目先を追うと、幸村くんが居て、にっこり笑いながら口をゆっくり開けた。
「まだ朝練は終わってないんだけどな」
俺は悪くない。
隣のあいつ
「ブン太ー」
「ほらよ、ノート」
「あと数学と理科も」
「たく、少しは自分でやろうとしろ!」
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