21

曇天な曇り空の中、冷たい風が吹くのも御構い無しで俺ら元テニス部レギュラーと現部長赤也は屋上に集合していた。
学食で昼食を取り終え、幸村くんから話があると深妙な顔持ちで言われ、誰にも邪魔されないところーー屋上の鍵を職員室から拝借してきたのだ。
そんな改まった口調の幸村くんから出された言葉に俺は耳を疑うしかしなかった。勿論、俺以外の奴らも驚きを隠せない様子だった。

「は?」

「丸井…」

「え、なんだよそれ、幸村くん、どういうことだよ」

「……彩華が言ってんだよ」

「外部?東京?は?なんだよそれっ…!」

幸村くんの襟元を掴んで叫ぶ。幸村くんは目を伏せ、何も言わなかった。普段なら絶対にしない行動に誰もが俺に目を向け、何も言わずに現状をみていた。
こうなったのは今朝、彩華が学校に来なかったことから始まる。毎朝ではないが、朝練のない日など殆ど登校を共にしてきた彩華が今朝、今日は休むと連絡があった。
近頃の彩華は不可解な行動ばかりで、様子が可笑しいと疑問を抱いていたが、原因は風邪だったのかと俺の中で解決に至った。馬鹿でも風邪引くんだな、と悠長に笑ったりなんかして。
学校に着いて彩華がいないことで仁王に寂しいじゃろ、とか何とかからかわれてもこの前ほど熱くならなかったのは謎だったモヤモヤが消えたからだろう。仁王も詰まらんとか言ってそれ以上は何も言ってこなかった。
別に彩華がいようがいまいが変わらず時間は進むし、むしろ隣が静かで良い。最近の俺が可笑しかったんだ。変なことで悩んで変に苛ついて、仁王に余計なことを吹き込まれたから意識してしまっただけ。そう、全ては仁王が悪い。そう考え出したら悠々と机に寝そべる仁王に腹が立って机を蹴ったのはまた別の話。
そして昼休み。偶にはテニス部で食べようと幸村くんが言い出した時もいつもの気まぐれと思っていて、これから告げられることの心構えなんてものは全くなかった。だから彩華が外部受験を考えているということ告げられた俺はカッとなって幸村くんに食って掛かったのだ。

「丸井、落ち着け。精市に言っても仕方がないだろう」

柳に引き離され、俺は舌打ちをする。ジャッカルが心配そうに声をかけるが、苛立つ俺には余計に癪だった。

「そういう素振り、なかったのか?」

「知らねえよ、なんも知らねえ!」

柳にすらもきつく当たる俺に、赤也なんて怯えて目も合わせやしない。
真田も柳生も仁王も何も言わないでただ皆で昼休み終了のチャイムが鳴るのを聞いていた。
荒々しく屋上のドアを開け、教室に戻る俺の後をついてくるのはクラスが同じな仁王だけ。

「なんで幸村くんが知ってんだよ、なんで俺が知らねえんだよ、なんであいつ…くそっ」

後ろに仁王がいるのも構わず、俺の口からは感情が溢れでていた。

案の定、気が立った俺は午後の授業は上の空。おかげで先生には大目玉をくらい、放課後残って一人資料整理をさせられている。
プリントを取ってはホチキスで留め、取っては留めを繰り返しやっと終わった頃には窓からは夕日が覗いて教室を照らしていた。冬は日が落ちるのが早い。首にマフラーを巻いてプリント全てを持って教室を出る。職員室によって担任に渡せば小言を言われ、頭を下げて気持ちのない謝罪をした。
お前ももう時期高校生なんだからな。この言葉がやたらと心に刺さった。

「よお、ブンちゃん」

無心に家への道を歩いていると、どっから現れたのか仁王が手を振って俺に近づいてくる。

「ちょっと顔貸しんしゃい」

何処ぞの不良が言うような台詞をはいて、有無も聞かず近くのファミレスへと入った。
ドリンクバー二つとお金のない中学生にとってお決まりの台詞を言って仁王は席を立つ。少し待つとコトっと湯気の立つ白いマグカップが置かれた。

「何の真似だよ」

「ブンちゃん甘いもん好きじゃろ?イライラしてる時は糖分取りんしゃい」

「別に……」

「昼、赤也怯えとったぜよ」

ああ、分かってる。滅多に声を荒げない俺が、それも幸村くん相手にあんな行動に出たんだ。いくら悪魔化する赤也でも先輩がああなれば怯えるのも分かる。
赤也も他のみんなも知らなかったことなのに悪いことをしたとは思っているが、あの場はああでもしなきゃ俺の中で腸が煮えくり返っていた。どうしても我慢ならなかったんだ。

「丸井、幸村にあたる前に言うべき相手がいるじゃろ」

「………」

「彩華だって理由があってお前さんに言わなかったのかもしれんしのう」

何で仁王はこの前からずっとこうなんだ。彩華を意識し始めただの、いないから寂しいだの。こういう言動が一々癇に触る。
でも本当は仁王の言葉を笑い飛ばせない、真に受けてしまう自分自身に一番腹が立っている。ーーーーというよりかは戸惑っているの方が正しい。俺はあいつに、彩華に対して自分がどういう風でいれば良いのか、昔とは同じでいられない自分に戸惑いがあるんだ。

「何を躊躇ってんだか知らんが、幼なじみなんざ遠慮いらんじゃろ。さっさと聞いてきんしゃい」

ここは優しさに溢れるまーくんの奢りなりと言って伝票を持つと仁王はファミレスから出て行った。
ぬるくなったココアを飲み干して続いて俺もファミレスを出た。仁王の言う通りだ、意地なんてそんなもの糞食らえだと自分に言い聞かせて。本当にいつもいつも彩華には振り回されてばかりだ。



隣のあいつ


「彩華ー部屋入んぞ」
「お見舞いなら高級フルーツが鉄板だよ?」
「誰が見舞いだよ。お前、立海の高校行かねえの?」


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