19
二週間も満たない冬休みが今日で終わる、そう気づいたのはバタバタと彩華が丸井家にやって来た時だった。
「ブン太!!」
強く開け放たれたドアに不意をつかれた俺はびくりと肩を揺らす。無断で入ってくるな、とか一声かけろ、とかいつ家に来たんだよ、とか色々言いたいことは過去散々言ってきたので省略する。
俺の親もいつからか彩華が来たことを報告することもなくなり、気づいたらリビングで談笑しながら寛いでいた、なんてこともしょっちゅうある状況で。
ほぼ家族同然の扱いであり、俺もそのことに口は出すものの内心ではすっかり慣れてしまっている。また逆も然りな時もあるため、あまり強く言えない現状もあるのだが。
そんな本日も突然だからこそ少し驚いたが、いつものことだと細かいことは気にしなかった。
「どーしたんだよ、んな慌てて」
「宿題!!」
「は?」
「すっかり忘れてた!何もやってない!!」
一瞬俺の中で時が止まる。
何の話だ、何のことだ。宿題?そんなものあった覚えがない。だが確かに彩華の手には数枚のプリントが握られており、チラリと見える限り内容は国語と数学のようだ。
しかし俺には見覚えがない。全くない。知らない。
「それお前だけじゃね?」
「なに言ってんの!みんなに配られてたよ!あーもーどうしよう!!」
頭を抱えしゃがみ込む姿はまるで漫画のようで、そんな姿を見ながら俺は冷静に二学期最後の授業を思い出していた。
サボったりはしていなかったはずだから確かに俺は貰ってーーーと、その時思い出したのは仁王の台詞。
ブンちゃん、プリントコピーしたい
ああ、思い出した。確かに宿題はあって、俺は貰って、そしてその日休んだ仁王に貸したんだ。
「彩華……」
「なによ」
「仁王、呼ぶぞ」
絶対あいつも忘れている。俺のを持っていることも忘れている。
携帯を開き、すぐ様仁王雅治を選択。本文にはたった一文。
今すぐ宿題持って俺んち来い
今日冬休み最終日は脳内から消え去っていた宿題を片付けるための日となった。
この世の終わりのような絵文字が一つだけの返信が来てから40分後、家のチャイムがなり俺は母親に仁王くんよーと言われて部屋から玄関に向かう。ドアを開けたら仁王ともう一人、困った顔する俺らの救世主がいた。
「さっきそこで会ったから連れて来た」
柳生と出会えたお前の運と、そのまま連れて来たことで宿題の存在を忘れていたことはチャラにしてやろう。仁王に無言で親指を立てると善は急げだと二人を急かして家にあげる。
母親にお茶くれ、とだけ告げると早々に部屋へと戻った。
「喜べ、メシアだ」
彩華の前に柳生を差し出せば神様仏様紳士様と歓喜に満ちた声をあげた。
呆れ顔で溜め息をつく柳生とどうにかこうにか今日中に終わらせなければ明日大目玉をくらうこと間違いなしな俺ら三人の共同戦線が始まったのである。
「今回はそんなに多くはありません。先に数学をやりましょう」
いざプリントを目の前にすると全くペンが進まない。そんな俺らを見兼ねた柳生はそう言った。
ちなみに俺のプリントはくっしゃくしゃになっており、仁王を蹴り飛ばしたのは言うまでもない。
数学のプリントを眺めること五分。わからない、と即座に根をあげたのは彩華だった。
「早すぎだろぃ」
そっと彩華のプリントを覗けば答え欄は真っ白。五分で何もできるわけがないのだから当然といえば当然だが。
「私に数学の才能なんてないのよ、無理なのよ……」
ブツブツ文句を垂れる彩華を横に、俺は簡単そうな計算問題を解こうとするが……数字が目の前を踊るだけで全く分からない。
無理、とテーブルに頭をうっつぶし降参体制に入った俺を柳生は呆れたものいいと共に溜め息をついた。
俺と彩華は白旗を振るものの、仁王はどうやら余裕らしく、スラスラとペンを走らせる。そういえば数学得意だったよなーと過去の仁王の出来を思い返す頃には問題も終盤に差し掛かろうとしていた。
「ブン太いいこと思いついた」
「なんだあ?」
「数学は仁王のを写そう」
どーんと堂々とした発言に今回ばかりは賛成の旗を振った。明日から学校が始まるのだ。今はもうなりふり構ってられない。
「ブンちゃんが国語うつさしてくれるなら良いぜよ」
「ん?」
「国語は得意だったじゃろ?」
こうして俺らは共同戦線、お互いの宿題を写し合いすることを決め、各々やるべきことに全力を注いだ。
彩華は俺のベッドで一人おやすみタイムと走ったが。
柳生の手を借りて写しました、ということをばれないように工夫を凝らし終えた頃には夕方を上回っていた。
「すっかり日も落ちましたね」
「冬休みも終わったのう」
「あ、お前ら花火やんね?」
夏にやって余ったから持って帰ってきたのがあったはず、とリビングに向かい探れば少量の手持ち花火と線香花火が見つかる。
仁王と柳生を呼びつけ、近くの公園まで歩いた。
「彩華さん起こさなくて良かったんですか?」
「あーー」
「内緒にしとけば平気じゃろ」
「ま、時期じゃねえ花火にはあいつも興味ねえだろうし」
真冬の花火を冷たい風が吹く中必死に火を付けて、バチバチって音と色んな形で燃える火を見ながらあったまらねえと暖取りがわりにしようとしてた俺らは文句を言いつつも楽しんだ。
ぎゃーぎゃー騒ぎながら寒いと肩を震わせ、線香花火はその震えからか普段より早いスピードで落ちた気がする。
後始末も終えて帰ろうとした頃、彩華が酷い!と大層ご立腹で来たことには柳生でさえも苦笑していた。
隣のあいつ
「ああ!!!宿題結局なにもしてない!」
「……しゃーねーからさっさと写せよ」
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