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「焼肉」

「あ?」

「焼肉が食べたい」

「なんだよ、いきなり」

部活の休憩時間中、俺の隣に座って一人アイスを食べているのは悲しいながら幼なじみの彩華である。
こいつはやたらとマイペースと言ったら聞こえは良いが、自分勝手と言った方が俺的にはしっくりくる。
そんなマイペースで自分勝手なこいつは、マネージャーであるにも関わらず仕事もせずに暑いと言って、恐らく後輩をパシらせアイスを食べながら涼んでいる。
もう一度言おう、今は部活中だ。部活動中にこの彩華の現状は相応しくない。むしろ相応しい相応しく無いの問題ではなく、間違っている。
歴としたサボり行為。

「ブンちゃん、焼肉が食べたい」

「分かったから、二度も言わなくても聞こえてるから」

「暑いんだけど、肉が食べたい」

「聞けよ人の話しも」

「だから焼肉を食べたい」

「お前はどんだけ肉に飢えてる子なんだよ」

会話一つに必ず「肉」と言う言葉が表れている。流石と言えば良いのか、今更だと諦めれば良いのか。長年幼なじみと言うものをやって来てはいるが、今一つ理解出来ない。
このクソ暑い中肉が食いたいと言う女は恐らくこいつぐらいだろう。俺だってこんな炎天下じゃあ食いたいとは思わない。出されたら残すことはしないが。

「ハァ…、肉」

「意味分かんねえよ、何でいきなり溜め息?」

「さっきから肉が食べたいって言ってるのにブン太が何もしないから」

「俺にどうしろと」

「肉持ってこい」

「無理だから」

「チッ、使えねえな」

目を細めて顔を歪める。歪めたいのはこっちだ、舌打ちしたいのもこっちだ。お前じゃない俺だ、と言いたくなったが必死に堪えた。
耐性と言うものだろう、彩華に対する耐性が出来上がっている。多少の理不尽な発言には辛抱出来る。例えそれが「使えねえ」だとしても、俺は意外と我慢強い男だ。
だけど言いたい、俺にどうしろって言うんだ。

「にーくー」

「叫ぶなって」

「ブン太肉ー」

「だから無理だって」

「ブタ肉ー」

「てめえ、今のワザとだろ!ワザと縮小しただろぃ!」

「煩いブタ肉、暑い」

「俺はブタ肉じゃねえよ!」

暑いのは皆同じだ。俺のせいでも無ければ誰のせいでもない、むしろ言うならば太陽のせいかもしれないが、太陽に文句を言っても仕方のないことだ。
そもそも彩華は動かずアイスを食べて涼んでいる。逆に俺らと言えば炎天下の中黄色いボールを決められた枠内で必死に追いかけていた。満場一致でマネージャーよりも部員の方が遥かに暑いと答える筈だ。
そんな意味も込めて視線を向ければ、目が何処となく俺より後ろへといっていた。

「………あー…」

「なんだよ、どうし」

彩華がいきなり声を上げたと思えば、バツが悪そうな顔へと瞬時に変化する。不審に思って彩華の視線を辿ってみると、幸村くんが笑顔でこっちを見ていた。
笑顔とは些か語弊があるかもしれない。幸村くんの口元だけが笑ってこっちを見ていた。そして、俺と目が合うと幸村くんが同じように口許だけを笑わせながら口を開いた。ここで悪寒が走らない者はまずいない。

「休憩時間はとっくに終わってんだよ」

反論の余地は何もない。


隣のあいつ


「なあ、部活終わったら焼肉食いに行くか?」
「ブン太の奢り?」
「仕方ねえな、」
「じゃあ冷やし中華が食べたい」
「肉はどこいったんだよぃ!」


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