18
冬休みと言えば、これが付き物だろうという二大行事。一年を振り返り、一年の抱負を言う二日間。そう、大晦日と元旦が明日明後日にせまった今日、俺はまたもや彩華の予定に付き合わされていた。
なんでも御節を明日作るらしく、その買い出しに頼まれた彩華なのだが、何故かそれがお隣の俺にはまで飛んできて「ブン太くんもお願いね」なんておばさんに言われてしまったのだ。
家で弟達とゲームをやっていた俺は見るからに暇人としか思えなく、拒否権をもらえぬままやってきたのは近所のスーパー。俺がカゴを乗せたカートを押し、俺がおばさんの書いたメモを見ながら食材を入れていく。
何かがおかしいことに気づいたのはきんぴらに使うだろう牛蒡を手に取った時だった。
「なあ、」
「ん?」
「なんでお前んちの買い物を俺がしてんだ?」
「さあ…?」
隣であのお菓子美味しそーだの今日の特番は何だのどこどこに旅行に行きたいだのお腹が空いただの歩くのが疲れただの、不満と欲しか言わない彩華は少し首をかしげると言った。
「ブン太が頼まれたからじゃない?」
「いやいや頼まれたのはおめーだから!」
そんなさも違うの?と言った顔をする彩華に頭が痛くなったのは言うまでもなく、溜め息をつけば幸せ逃げるよーなんて悠長に言ってくるやつがいて、このカゴを投げ捨てたい気持ちに駆られる。
そこをグッと我慢する俺。天才的ってかただの慣れだけど。
「さっさと買って帰ろーぜぃ」
「うん」
「…いや、うんじゃなくて」
「え?」
「少しは手伝えっつーの!」
こうやって俺は毎度頭を抱えながらも彩華のちょっと子供じみた(実際まだまだ子供だが)顔を見ると何も言えなくなってしまう。
この間自覚させられた「それ」に気付いてしまったから余計に、だ。余計に何も言えない。
尻にしかれるタイプなのかもしれない、意外と俺は。
さて、年末なこともあってかやっぱりこの時期に此処に長居するのはいかがなもので、はたから見たら俺らはどんな風に見えるのだろう。兄妹、もしくは仲良しな中学生カップルにでも見られているのか、見られていたら嬉しいーーいや、何考えてんだろ、なしだなしだ。
仁王と話してからおかしいんだよなあ。
「あ!ブン太!これ、すっごい美味しいの!」
無邪気にはしゃいで少々煌びやかなチョコレートを持ってくる彩華が可愛い、とかさ。あーくそ。
「よしっ、それ入れろ!んでもう大体そろったから行くぞ!」
他所の家の、と言っても佐藤家は他所と言うほど遠い関係ではない。そんなおばさんから預かったお金で俺らの欲(つまりお菓子)を加えたカゴを精算する。
まあまあな量の買い物に、どうせ持つのは俺なんだよなあとか思いながら袋にも詰め、店を後にした。ひょこひょこついて来ながら話す話題は尽きなく、面倒だし色々俺の苦労も増えるがやっぱり一緒にいて気が楽なんだよな、と再認識。
すると不意に手が触れた。ドキッとしながらも何の気もないよう返す。今まではそれが当たり前だった。
「持つよ、こっち、軽い方」
「ああ、サンキュー」
珍しいと思った。彩華が自ら荷物を持つなんて。人としては常識的な行為かもしれないが、今迄の彩華を見ていたら信じられないとまでは言わないが珍しい行動なことには変わりなく、思わず何かあるのかと身構えてしまうほど。
しかしこれと言って何か言われるわけでもなく、鼻歌交じりでふふん、と前を歩く姿をただ見つめるばかり。
なんだかきみわりいな、本人にはけして言えないが心でそう思った。
お使いを終え、佐藤家に着いてからも俺は家には帰れなかった。
理由は簡単で、何故か次は彩華と共に部屋の大掃除。家に帰れば自分の部屋を片付けろと言われると分かっているだけにどうして一緒に掃除しているのか未だ理解は出来ない。
「なーこれどーすんだ?捨てていいの?」
「それはいいけど、それはダメーまだ取っとくのー」
「うわっこれいつのだよ」
「わーー!!待ってそこ勝手に触らないで!!」
なんて言いながら着々と片付けを終えていく。
一通り終えた頃、外の日はとうに沈んでいた。
「つ、つかれたあ……」
「……結局最後までやっちまったよ」
「あ、ブン太ご飯食べて行くでしょ?」
「へ?」
「今日手伝ってくれたお礼ーってさっきお母さんが言ってたよー」
佐藤のおばさんの料理上手いんだよなあ、と脳裏に今まで食べてきた味が瞬時に浮かぶ。
どうせ帰ったら帰ったらで小言言われるだろうから、と考えお言葉に甘えてご馳走になることにした。とは言え、長年の付き合い故に今更「ご馳走になる」なんて言葉は合わねえんだけど。
「ブン太ブン太!見てこれ!!」
「あー?」
「小学生の時の遠足!懐かしくない?!」
片付けたら見つかったのだろう、写真片手にきゃっきゃっ騒ぐ彩華を横目にああ、今年ももうすぐ終わりかあと柄にもないことを考えた。
隣のあいつ
「見てこれ、ブン太の変顔、おかしっ……くく」
「うっせーな、お前も変顔してんじゃねーか!」
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