一方通行じゃなかった
赤い髪の毛が太陽に反射してキラキラと輝く。暑い暑い夏の真昼間から右往左往と駆け回る君を、木陰から見つめるのが私の日課だった。君が楽しそうに、そして真剣にテニスをしている姿を見るのが好きで、それだけで私は満足だったのだ。だから特別話すことはなくても、この気持ちが一方通行であると分かっていても、私は君のキラキラを目に焼き付けることは怠らなかった。
夏が終わり、肌寒さを覚えると同時に心にポッカリ穴が空いたような気持ちになってしまう。定位置の木陰に行っても、もう君が走り回る姿を見ることはできないからだ。

放課後の楽しみがなくなって手持ち無沙汰になった私は何をするでもなく教室に残っていた。たまたま持っていた文庫本をパラパラと捲る。じっくり読む気分にはなれず、かと言って何か手を動かしていないと落ち着かない。
教室内に残っていた生徒も1人また1人と去っていき、完全に私一人となった時。
「あ、おまえ」
後ろのドアの方からよく知る声が聞こえて振り返れば、案の定そこにいたのは赤髪の君だった。
「何やってんだ?」
彼は他所の教室にも関わらず、というより何も気にせずズカズカと入ると私に近付いてくる。
突然の出来事に、もちろんパニックな脳内。ただただ瞬きを繰り返して、眩しいばかりの赤い髪を視界に入れ続けるので限界だった。
「おーい、聞いてる?」
目の前に手をひらひらと振られ、私はハッとして立ち上がると思った以上に至近距離だった丸井くんのおでこと私のおでこがゴツンと思い切りぶつかった。
「いっ……」
瞬時に走る痛みにお互い悶える。額を押さえて表情を歪める丸井くんに勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!」
私の頭は依然混乱したまま、丸井くんの様子をそっと伺うと彼は苦笑しながら「俺もわりい」と言葉を添えた。
「あ、で、おまえさ」
丸井くんは右手の人差し指で頬をポリポリと掻きながら、少しきまりが悪そうに続ける。
「今度の日曜空いてる?」
「は……?」
私はポカンと漫画のように口を開けて、目を見開く。
「三年のみんなでテニスすんだけど、おまえもくる?」
驚くと人間は何も言えなくなるのかもしれない。開いた口は塞がらないし、そこから声も発せられない。どうして今彼からお誘いを受けているのか全く分からなくて。そもそも私と彼は初対面なはずなんだ。私がただ一方的に彼を見ていただけなんだから。
「おーい、聞いてっか?」
またもや視界いっぱいに彼の手が至近距離で迫る。
分からない。自分だけで考えるにはキャパオーバーだった。
「あの、丸井くん……私のこと知ってるの……?」
「何言ってんだよ、おまえ毎日俺らのテニス見に来てただろ」
彼は、知っていてくれた。
「だからまた見に来るかなって思ってさ」
「見に行ってもいいの?」
「俺が誘ってんだっつーの」
歯を見せて笑う彼は幻でしょうか。
「い、行っていいなら……もちろん!」
「ハハッ、じゃあ待ってっからな!」
私の頭を二回ぽんぽんと触れるとそのまま去っていく。そんな彼の後ろ姿を見送りながら頬を抓ってみるとしっかり痛かったので、これが夢ではないことに心から歓喜した。

奥山ゆう /
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