青春ごっこ
雨上がりの空を見上げた。
小さな鳥が必死に羽をはばたかせて空を飛ぶ。頬を撫でるように通る風が心地良い。ただ何も考えずにボーッと柵越しの外の世界を眺めていた。すると自分の名前を呼ばれる。頭の回転は止まったまま振り向けば、直ぐ近くに彼はいた。
「なーに見てんだ?」
グリーンアップルが香る。赤髪が太陽に反射してキラキラ光るそれが眩しくて、思わず目を細めた。
「虹でも出てないかなと思って」
「出てた?」
「ううん」
そっか、と呟きながら丸井は私の隣に来て柵に肘を置いた。ガヤガヤとうるさい教室から一歩窓の外へと出ればまた違う喧騒が聞こえる。校庭に目を落とすと早くもサッカーボールを蹴り合う男子生徒の姿がいくつもあった。早々と学校を後にしようと足を進める者もいる。そんな様子をただただ流れるように見ていた。
また丸井が口を開く。
「お前今日何してんの」
丸井が口を開く度に噛んでいるガムの匂いがふわっと香る。
「特に何も」
しなければいけないことは沢山あっても、特に何かをしたいという思いもなくそう答えた。
「丸井は部活行かないの?」
「おいおいこの間引退試合見に来てくれただろ」
もう忘れたのか?と丸井は笑った。そうだった。三年生は夏が終わると部活を引退するのだ。三年間帰宅部で過ごしてきた私は何だかそれがしっくり来ておらず、つい先日の出来事すらも頭から抜けていた。
「じゃあ暇なんだ」
「まあな」
プクゥとガムが口から膨らみ、綺麗な丸が出来上がる。横目で見ながら左手の人差し指でつつくとパンッと簡単に割れて、丸井の口元にべたりとくっついた。
「たくっ……やめろよ」
少々不機嫌な丸井の声に、心の篭ってないごめんを言えば、彼はそんなことよりと身体をこちらに向けた。私もそんな彼に応えるように少し身体を向ける。
「暇ならさ、ちょっとデートしねえ?」

街の喧騒から外れ、私達は近くの河川敷に来ていた。なんで川?と聞けば、たまには良いだろと明確な理由は答えてくれなかった。
適当な石を拾うと川に向かって投げる。3回水面の上を跳ねると、ぴしゃんと沈んだ。私も見様見真似で手頃な石を手に取り、横投げをする。しかし虚しくもポシャンとすぐに水に飲み込まれた。
「ヘタクソだなあ」
カラカラ笑う丸井にムキになってもう一度投げるも呆気なく沈んでしまう。出来なさにモヤモヤしていると丸井はひとしきり笑い終えたのか、俺さと柄にもない声を出し始めた。
「おまえとこうやって過ごしたかったんだ」
「え、どういう……」
予想もしていなかった言葉にピシリと体の動きが止まる。
「なんつーか、ずっと部活で忙しかっただろぃ?まーそれはそれでいいんだけど、おまえとも一緒にいたかったつーか」
語尾が次第に小さくなる。真っ赤な髪と同じように耳から順に顔も赤くなっていく。私の手からは持っていた石がポトっと地面に落ちた。
「これ、一応告白なんだけど」
「…………」
「だから!俺はおまえが好きなの!」
「えっと、うん」
落とした石ころを拾いあげると、今度こそ川に投げつける。それは二回跳ねるとポチャンと沈んだ。
「あ、はねた」
もう一度手頃な石を取って投げる。それを続けること三回。どれも跳ねることなく川に飲み込まれていった。
「なあ、おい」
「難しい、ね、これ」
「俺の言ったこと聞こえてたよな?」
はあ、と大きく溜息をついた丸井は息を思い切り吸い込む。すると今度はさっきより大きい声で言った。
「俺はおまえが好きなんだよ!だから付き合ってくれって言ってんの!」
大きな声にびっくりして肩が跳ね上がる。自分の顔の中心に熱が集中していくのが分かる。きっと向き合う彼と同じくらい私の顔も赤いに違いない。
「だ、だって、そんなそぶり一回もっ!」
「じゃあこれが5回はねたら俺の彼女な!」
突然無茶苦茶なことを言うと、わたしよりも数歩下がった位置から丸井は石を投げた。1、2、3、4……リズムよくそれは弾むときっちり5回水面を飛び上がって6回目で落ちた。
「やりぃ!」
後ろから小さく聞こえる声。
「約束は守れよ!」
一方的な言葉だけれど、にかっと笑うその顔に、こんな展開を望んだ自分がどこかにいたと思ってしまった。

奥山ゆう /
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