courageous
「よし、」

私は気合いを入れる為に拳と足に力を込めた。自分自身に喝を入れ、それ程大きくない箱が一つ入った紙袋を手に取って、放課後の誰も居ない教室へと足を踏み入れる。
今日は全国の女の子が異性へチョコレートを使ったお菓子を渡す日。2月14日は確かアイルランド人のバレンタインって人の命日らしいけど、私にとっては年に一度の誠心誠意、気持ちを込める恋の日だ。
今までは友人にチョコレートをねだるだけで終わっていた日だが今年は違う。現在自分の手には計5回失敗して昨日の夜中にようやく作りあげることが出来たチョコレートケーキがある。何度買った物を渡そうと思ったことか、自分の不器用さをこれまでに無いくらい恨んだ。

「よし、歩け自分」

流石に本人に直接渡すことは不可能であるから、こっそりと置いておこうと思った朝から早8時間が経過。何処に置こうだのカードがあった方が良いかだの悩みに悩んだ挙げ句、結局放課後になってしまった。放課後、それも皆帰った後なら人目も気にせず置くことが出来る。
幸いあいつはテニス部で、今日も勿論部活があって帰るのは遅い。しかもいつも鞄を机に置いて行くみたいだから部活後に教室を必ず訪れる。
だから、今置くのが最高のタイミングと言うわけだ。

「あー…明日学校休みで良かった」

本日の曜日は日曜日。世間一般的に休日とされるのだけれど、この立海大附属は校長の計らいで明日の月曜が休みで今日は平日と同じように授業がある。
私にとってはわざわざ家に行く手間が省けたのだから嬉しいと言えば嬉しいことだ。

「あれ、名字まだいたの?」

「えっ…丸井?!」

私が今まさに机に置こうしている時にガラッと後ろのドアが開いた。慌てて振り返ればそこには私が渡そうとしている張本人、丸井ブン太の姿がある。

「なっ…なっ…え…?」

声にならない声を上げる。
丸井は私の手に目を移し、そしてにやにやと笑った顔で視線を合わせてきた。

「それ俺にくれんの?」

「えっ…あ、いや…その」

「そこ俺の席だし、くれんだよな?」

「ま、まあ…うん…」

「そっかサンキュー!」

考えに考えた挙げ句の放課後なら本人に会えないから…と言うのは見事に崩された。
現に部活はどうしたのか知らないが丸井は此処に居て、直接なんて絶対無理だとか言いながら机に置こうとした紙袋を丸井に手渡ししている。
もう頭の中は真っ白でまともに日本語が話せなくなっているけれど、丸井のこんな笑顔を間近で見れたのだから良しとするかな。と私は心で笑った。






恋という花が咲く瞬間
「なー俺になんか言うことない?」
「え、何が?」
「いやーだって思い切りこのカードに…さ、」
「わ、わわわわわわ!!」
「あー…と、返事は…」
「ちょ、待っ…」
「俺も名字、好きだから」

奥山ゆう /
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