終始一緒に
「日吉ーいるー?」

時刻は既に21時を回っており、外は街灯のみが明かりの綱となる程の真っ暗闇。住宅街では他にあるのは月明かりと各家から漏れる電気のみ。
そんな住宅街で、マフラーを巻き寒さに身を震わせながらも元気良く日吉若を呼ぶ一人の女の子の姿が見られた。

「はあ…今何時だと思っているんですか」

呼ばれた日吉は溜め息を吐きながら玄関のドアを開け、姿を見せる。顔は心底迷惑そうで、「近所迷惑です名前さん」と言葉を続けた。

「だってメールの返信がないから!」
「誰があんなメールに返信なんてするんですか」

日吉のそんな言葉を聞き眉をひそめる名前は拗ねたように口を尖らせた。
今から10分程前に名前は日吉に一通のメールを送っている。本人は真面目に送ったようだか、日吉にはふざけているとしか取れなかったのだ。

「取り敢えず、早く着替えて来てよ」
「俺は行きませんから」
「何で、」
「どうして今年最後まで名前さんと居なきゃいけないんですか」

名前が送ったメールの内容は要約すると一緒に今年最後のカウントダウンをしようと言うもの。
最近この辺りは神社で年越しが流行っているようで、その話を聞いた名前は日吉と行かなければならないと思い、そして当日に誘った。それは見事に断られたのだが。

「そんなに行きたいのなら忍足さんや向日さんを誘えば良いでしょう」
「私は日吉と行きたいの!日吉が日吉が良いの!」
「な、にを真顔で…」

日吉はいつもにも増して素直なそして真剣な名前の台詞に顔を赤くする。普段から似たようなことを言っている名前だが、真剣な顔して言うことはない。
だからか笑いながら言っている為、日吉には冗談としか受け取って貰えないのだ。

「私は日吉と一緒に年を越したい…日吉と一緒に居たいの!」
「……分かりましたから。近所迷惑ですので、もう黙って下さい」
「じゃあ行ってくれる?」
「はあ……行きますよ」

だんだんとボリュームを上げていく名前の声。夜の外はかなり静かな為声が良く通る。
このままで近隣の家に聞こえてしまう、日吉は渋々頷きながら決断をした。日吉が了承するなり名前がころりと表情を変えたのを見ると、余儀なく了承させたのは策略だったのかもしれないと思う。

「じゃあ少し待っていて下さい」
「はーい!」

日吉は再び深い溜め息を吐くと、着替えるべく自分の部屋へと戻った。その間名前を寒い中外で待たせておくにはいかなく、家に入れダイニングルームで待っていて貰うようにする。
たったこの短い時間で日吉は何回溜め息を吐いたのか、苦労が絶えない男である。


「神社ってどこの行くんですか?」
「…………」
「あの、聞いてますか?」
「何で…」
「え?」
「何で袴じゃないの!」

凄みのある目で睨まれ日吉は出す言葉を失った。だが言葉を失った理由は睨まれたからではない。睨んだと同時に発した台詞に驚き、口を継ぐんだのだ。

「着替えて来るって言うから…」
「そりゃ外に出るんですから、着替えるのは当たり前だと…」
「だから何で袴じゃないのさ!」

日吉は和服を好むから絶対に袴を来て来ると信じていたのに、と名前は言葉を続けた。
それには日吉も眉をひそめるばかり。そして隣で熱心に和服、特に袴について語る名前に内心さっさと離れたい気持ちで一杯であった。

「名前さん、」
「ん?」
「今後稽古がある時は呼びます」
「本当に?」
「はい、だからもう黙って下さい」

いっこうに喋るのを止めない名前に痺れを切らした日吉は前々から頼まれ続けた稽古の見学を承諾することに。それにより名前の熱血した語りを止めることが出来、更には名前の機嫌が一層良くなったもよう。
日吉は小さく溜め息を吐いたがそれは風によって消され浮かれる名前の耳には届かなかった。

「日吉くん」
「はい」
「何が楽しかった?」
「は?」
「私は日吉と一緒に居られるだけで楽しかったよ」

不意に発せられた台詞に怪訝な視線を向ける日吉、だがそれに構わず名前は言葉を続ける。
いつもは冗談みたいにしか言えないから、照れ臭くて笑って言うことしか出来ないから、と。内容は纏めるならば愛の告白である。しかし名前が言う言葉では余りにもごちゃごちゃしていて、纏まりが無いので通じているのかは不明だ。
それを聞く日吉は少しずつ話しの根源を理解していく。名前から何を聞かれ、そして現在何を話しているのか分かっていなかったのだが、やっと初めに聞いてきたことが「今年は何が楽しかった?」と言う意味の台詞だったことに気付く。

「名前さん主語を言って下さい、といつも言ってるじゃないですか」
「そこは愛の力よ!」
「誰が愛ですか」
「じゃあ恋?」
「気持ち悪いこと言わないで下さい」

元々眉間に寄っていた皺が更に深くなる。同じく名前の眉間にも深い皺が。愛も恋も否定され不可解なのであろう。
それに散々真剣に言った名前の言葉も日吉は聞いていなかったのか聞く気がなかったのか、反応が無い。
名前は皺を寄せたまま、日吉との距離を縮めるべく歩きながら近寄っていく。

「何ですか」
「ちゃんと話しを聞いてよ」
「それは俺の台詞なんですが……でもしっかり聞いてますよ」
「じゃあ少しでも反応を…」
「あ、神社着きましたよ。先に参拝しますか?」
「うん。ってそうじゃなくて!」

綺麗にはぐされた名前だが、どんどん進んで行く日吉を止めることは出来ず黙って着いて行く。
いくら毎日のように言って、全て無視されていることでも真剣に言ってまで何も反応が無いのは悲しいことだ。
少し寂しく思う名前は数歩差を置く。当然周りには人が沢山いるのだから、あっという間に離れてしまうだろう。

「はあ…手、貸して下さい」
「え…?」

いきなり無言になる名前に疑問を持った日吉が振り向き、さっきまでと違う様子に溜め息を吐きながら手を差し出した。

「迷子になられては、俺が困りますから」
「日吉…!」

参拝をし、所々にある屋台で軽食を取る。着々と時間は過ぎていき、カウントダウンを迎えた。無論繋いでいる手はそのままだ。




A HAPPY NEW YEAR
「日吉大好きだよ!今年もよろしくね!」
「はい、こちらこそお願いします。あと俺も、名前さんのこと好きですから」
「え…?今なん、て?」
「もう言いません」

奥山ゆう /
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