わたしが炎天下のコートで駆け回る彼等を見に行ったのは言うならば暇潰しと言うやつで。
たまたま放課後には予定も何もない日だったあの日、気まぐれと言う言葉通り昇降口を出た後フラフラと足を進めたのは家路ではなく、ギャラリーの多いテニスコート。
他意はない。本当に気まぐれ。
何と無く三年になった今でも一度も見たことなかったな、と頭を霞めたその言葉が足を動かしたんだと思われる。
しつこいようだけどもう一度、群れるギャラリーに混ざるようにしてフェンスの近くに行き切磋琢磨と動き回る彼ら見ようとしたのは「気まぐれ」それ以上でもそれ以下でもなかったんだ。
「あれ、名字じゃね?」
だから同じクラスで昨日席替えしたらなんと隣の席になった真っ赤なおかっぱくんに話し掛けられて驚いたのは言うまでもない。
「あー…うん、名字です」
「なんだよその反応」
「だってなんか…なんかだよ」
「意味わかんねえ奴だなあ。つかなに見に来たの?俺を?」
「何であんたなのよ」
「隣じゃんか、席が」
「席と部活は関係ないでしょ。まあ別に誰かを見に来たわけじゃ……あ!しいて言うなら跡部くんが見たい!」
あの有名な台詞を生で聞きたい、とは言わなかった。場違いな気がした。甲高い声で声援を送る彼女らに混ざって、応援しにきたわけでもないわたしがそんなことを言うのは。
すると、真っ赤なおかっぱ頭の向日は僅かにだが顔を歪める。意味がわかんねえ奴だなあ。向日の台詞が頭を過ぎった。
「クソクソ跡部かよ」
「え、跡部くんと仲悪いの?」
「うっせー黙れ」
「ええええ…」
「…あ!おい侑士!試合やろうぜ」
ちょうど通り掛かった丸眼鏡の関西人。はじめまして…ではない。去年同じクラスだった。
彼がフェンスのそばに寄って来る時に思ったのは、そうか跡部くんの話は綺麗にスルーされたのか、だった。
「いきなりなんやねん、試合なら俺やなくて跡部に言うべきやろ」
「ダブルスやんだよダブルス」
「また急な…って、名字やん見に来たん?」
「まあ、多分きっとおそらく」
「何で確信持てへんねん」
「跡部ー!試合やろうぜ試合!」
忍足に苦笑されていると、向日が泣きボクロが良く目立つ部長さんを呼ぶ。近付いてくる彼に対して、とてつもなく整った顔であることを再認識した。
「ああん?なんだてめえいきなり」
「ダブルスやろうぜダブルス」
「はあ?…まあ、良いかたまには」
「よっし、ぜってえ勝つぞ侑士!」
何やら一人意気込む赤髪を先頭に残り二人は溜め息をつきつつ歩みを進めていた。わたしは放置ですか、そうですか。
せっかくだから試合だけ見て帰ろう。そう思ったのもやはり気まぐれであって、今日はその気まぐれが全ていけなかったのだ。
普段何とも思っていなかった君がやけにキラキラとして見えてしかたなかったのはもう気まぐれでは済まされないのだから。
Fancifui action
(それは始まり)綺麗に空中で一回転して見せた君も、相手を挑発して笑う君も、くっそー負けた!と嘆く君も全てにドキドキしたわたしはどうかしてしまったのだろうか。
君の頭には負けるかもしれないけれど、真っ赤にほてった顔は暑さのせいなんかじゃなくて、隠すようにして下を向いて慌ててこの場を去った。
だって無視出来ない感情が確かにここに存在しているから。
奥山ゆう /
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