strength
気になれば気になるほど、それは好きな証拠で。あたしはいつも目で追っていた。ふと視界に入れば話したいと強く思ったり、目が合えば恥ずかしくなって反らす。話しをすればつんけんと厳しく当たる。これを友達に言えば恋だと言われた。確かに、これは恋らしい。確かに、あたしはアイツが好きらしい。

こんなにも、心臓が煩く高鳴るのだから。

「で?」

「え?」

「えじゃないから。俺にどうして欲しいわけ?」

「……きょ、」

「きょ?」

「協力を!…し、して欲しい…」

「やだ」

「ええ!」

有りったけの勇気を振り絞ってあたしは自分の気持ちを打ち明けた。アイツに少しでも近付けるよう誰かに協力して欲しい。それがあたしの願いであり、それは今一瞬で崩れ去った。どうして。

問答無用に言い放った男、幸村精市は相変わらず表情を変えることなく更に言葉を続ける。

「だいたいさ、俺が昨日言ったこと覚えてる?」

「……?」

「俺はお前が好きなの。そしたらお前はなんて言った?」

「…………が好きだから」

「そう、つまり俺はフラれた。分かる?」

溜め息をつきながら嫌そうに顔を歪める幸村にあたしは小さく頷く。
幸村はあたしが好き、だけどあたしの好きな人は他にいる。だから幸村は失恋。大丈夫、理解してる。もう一度、今度は大きく頷けば一層表情は歪んだ。

「なのに何で俺がキューピッドみたいなことやんなきゃいけないの?意味わかんない」

「だ、だってこんなこと頼めるの幸村しか!」

「はいはい。だけどごめんね、失恋した相手の恋路を助けるほど俺は出来た人間じゃないんだ」

「……幸村は…完璧、だよ」

「その完璧な幸村を選ばなかったお前が良く言うよ」

「だって、」

「とにかく、この話はもうおしまいね。そろそろ部活行かないと部員に示しがつかない」

「…………」

誰もいなくなって幸村とあたしだけになった教室から、ラケットバックを背負って出て行く幸村を目で追いかける。
きっと情けない顔をしてるだろう自分自身。次の行動に移すことも出来ずにそのまま椅子に座って俯いていた。

「…名前、俺明日部活終わったらあのテニスコートに行くから、お前も来なよ」

「え…」

「多分アイツいるだろうから、勝手に話すなり何なりすれば良い」

「わか、った!」

一度教室を出た幸村が戻って来て、それだけ言うと再び出て行った。時間がギリギリなのか廊下からは急ぐ足音が響いている。
あたしも自分のバックを取り、肩にかけると教室を後にした。
明日になればアイツに会える。幸村が部活以外で練習する時にしか会えないアイツに。

考えれば考える程あたしの足取りは軽くなった。
そしてふと頭の中で幸村から言われた言葉が浮かぶ。フッた事実は変わりはしないが、あたしは幸村が嫌いなわけじゃない。実際一昨年の夏まであたしは幸村精市が好きだった。
だけど、あたしは強い人が好きだから。

だからあたしは、幸村に勝った越前リョーマが好きなんだ。

奥山ゆう /
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