恋ってやつは
事の始まりはテスト前日の昨日の夜に届いた一通のメールだった。普段机に向かうことはまず無い私でも、テスト前日となれば話は別と言うもの。いくら附属のエスカレーターで大学に行けるからとは言え、三年の学期末のテストは手を抜けない。
そして勉強に勤しむこと30分。長く持たない集中力が少し切れ始めた頃、チカチカと携帯のランプが点滅し出した。試験範囲の確認かな?と思いながら右手でカチカチと操作していく。慣れた手つきなのは私が常日頃触っている証拠だ。

「は?」

メール画面を開いた時、思わずそんな言葉が口から洩れていた。しかしそんな反応をしてしまうのは仕方のないことだと思う。
差出人は同じクラスの男子生徒、丸井ブン太。そして書かれている文面はこうだ。


From 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
明日の放課後テニスな!


近頃頻繁に行われているらしい放課後テニス。何でも選択授業でテニスを取っている人達が集まって授業の無い5、6限目に打ち合っているとのこと。
勿論今は引退しているがテニス部レギュラーでもあった丸井は当然の如くテニスを取っている。私も選択はテニスだがそれは今はどうでもいい。
そんな放課後テニスをテスト真っ最中である明日やろうと言うメール。律儀にテニスラケットの絵文字付き。馬鹿としか思えない。そもそも私は放課後テニスに参加したことがない。
男女テニス部とサッカー部から成っている為、帰宅部な私には無縁な筈なんだ。
そう思って休憩がてら阿呆らしい丸井のメールに返信をする。


To 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
送る相手間違ってない?


直ぐさま返ってくるメール、そこから数回繰り返されたやり取り。


From 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
いや、これで正解だぜい


To 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
放課後テニスとか一回も参加したことないんだけど


From 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
まあ、ノリでさ!


To 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
じゃあプロ並に強くなってることを期待しとくよ

放課後頑張れ


From 丸井ブン太
Sub Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
来なかったら明日
お前の答案用紙破り捨てるからな


やっぱり律儀に文の最後には絵文字がついていた。まあ私も絵文字付けて返したけど、それはどうでも良くて、メールはそこで途絶えた。今日はウィンブルドン男子シングルスの決勝だと言うことを思い出して慌ててテレビの電源を付けたから。9時間の時差を越えてリアルタイムで流れるテニスの試合に釘付けになっていた。
そして迎えるは朝、テスト当日。今日の科目は政経だ。
一度目の鐘はテスト開始を合図し、二度目は終了を示す。その間50分。そして今さっき鳴った鐘は二度目だった。

「お、いたいた名字ー」

「…………」

「お前ちゃんと準備してきたか?」

「………知らない」

「おい待てって名字!」

「……………」

「名字!」

「もう五月蝿いな!着いて来ないでよ!」

「テニス」

「は?」

「テニスすんぞ!」

「だから明日もテストだって!しかも明日は…って、ちょっと丸井聞いてんの?!」

無理矢理手を引かれ、コートへと連れて行かれる。制服じゃ出来ないからと丸井にジャージを渡され、自分で着替えなければ脱がせると言われたから渋々着て、ラケットを持たされた。
それから日が暮れる迄付き合わされた私の次の日のテストの結果は言うまでもない。一番苦手な英語が二つもあったのだから。




恋ってやつは些細なことをきっかけに生まれるらしい

テストは赤点だけどあの日テニスをしたことは後悔してない。

奥山ゆう /
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -