貴方を見極めたい私
寒くて寒くて、手先は既に感覚がなくなっていた。自分の右手で左手を触ろうが、右手で左手を触ろうが、冷たいとすら感じない。

「これこそ冬ね」

いやに感心して私は言った。雪が降らないのは空が快晴そのものであるから。曇天だったら恐らく氷の粒が降りてきてもおかしくない。
今年の初雪はまだだろうか、寒いのを好むわけではないけれど、雪と言うものに好奇心が働かないこともない。
曖昧な言い方だけれど、私以外にもこうやって思う人は沢山いるはずだ。

「それにしても寒い」

そう言うと同時に白い息が漏れる。今まで(と言っても小学生時代)どうして息が白くなって目に見えるのか不思議で堪らなかった。霧と同じ…いや、沸騰したヤカンから出る水蒸気と同じ原理なんだよね。
こう思う辺り、歳を取ったと感じられずにはいられない。月日の流れを早く感じてしまうことも、今まで謎だったことが解明されてしまうことも、義務教育じゃなくなってしまっていることも、将来を考えなきゃいけなくなってしまったことも、全部もう私は駄々をこねて許される子供じゃないことを決定づけている。

「なーんか、嫌だなあ」

それは現実逃避したい、と言うほど大きな気持ちじゃないけれど、このまま成長したくないとも思ってしまう自分がいる。

「って、こんな朝早くからメール?」

コートのポケットが僅かに振動する。定期と携帯が入っているポケットが振動するのは携帯に何か連絡が来た場合のみ。
定期が振動するわけないから、当たり前だけど。

冷たい手で同じく冷たい携帯を握る。ボタンを押そうとしたら、かじかんで上手く押せなかった。

「――朝から、携帯ですか」

やっと一回だけ押せて、もう一回押せばメールの差出人が分かると言う時に後ろから伸びてきた手によって、携帯は取り上げられた。
びっくりして慌てて振り向けば眼鏡をした紳士男。私と同じくコートを来て、髪の合間から見え隠れする耳は赤くなっていた。

「ちょっと柳生返してよ!」

「ああ、彼氏からですよ」

「え?」

そう言ってにっこり、と笑う柳生は私の掌に携帯を置いた。
彼氏?私に彼氏なんていたっけか?そんな疑問よりも気になったのは柳生の笑い方。こんな笑い方をする奴だっただろうか。
相変わらず笑みを浮かべているものだから、私は携帯を見た。まずはメールを見なくちゃ、と。

「今日、部活休みじゃから一緒に帰るぜよ」

メールの本文に書いてあることが、何故だか本人そのものの声で隣から聞こえてくる。
差出人は仁王雅治。今隣にいるのは柳生比呂士。
もしかして私は幻聴を聞いてしまったのかもしれない。そう思って隣を見たら、さっきとは違った笑いをする男がいた。

「〜〜仁王!朝から詐欺はやめてよ!」

ニヒルな口許からは「プリッ」とお決まりな言葉が発せられた。

奥山ゆう /
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