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あなたに真実を



「……」

 分厚い本のページをめくる手を止めて、クラレットは静かにため息をついた。バノッサが持っていた、魅魔の宝玉。そして派閥に属さない黒装束たち。

 どうしても、思い当たる人物がいた。

 それに、蒼の派閥の召喚師とかいうギブソン・ジラールの視線が痛くてやっていられない。トウヤに「クラレットは何かの派閥に属してるのか?」と聞かれ、していないと答えたことに少し後悔していた。

 ギブソンにとって自分があやしい存在なのは変わりないだろう。それは事実で、クラレットが彼の立場にあったらそう思うだろうから仕方ないとは思っていた。しかし、トウヤにもあんな顔をされて──彼の場合は疑いたくないからあんな顔をするのだが、それはクラレットにとって苦痛でしかなかった。

 ぱたりと本を閉じて昼間から屋根に登ったクラレットは、少し高い場所からサイジェントの街を見渡した。スラムがしばらく続き、次に街らしい軒々が見えてくる。遠くには領主の城まで見えた。

「クラレットー!」

 庭で剣の稽古をしていたアルバが彼女に気付いて、ぶんぶんと手を振る。自然に頬がほころび、クラレットはアルバに手を振り返した。洗濯物を取り込んでいたリプレもクラレットを見つけて優しく笑ってくれた。のどかな午後。

 そこに。

「ただいま」

「おかえり、トウヤ」

 釣竿とバケツを持ったトウヤが帰宅。リプレに声を掛けて前を向けば、クラレットの存在に気がついて笑顔を見せてくれた。

「クラレット、そんなところで何をしてるんだ?」

 咎めるような口調ではなく、どちらかというと……父親が娘に話しかけているような優しさを感じた。

「ちょっとだけ、高い所に登りたくなったんです」

 すべて話してしまえる勇気があったなら。軽蔑されようが嫌われようが、そんなことを気にせずに打ち明けてしまえたら、どんなに楽だろう。自分を信じてくれている相手に隠し事をするのは、つらい。無償で与えられる優しさが、なんだか怖い。

「僕もそこに行ってもいいかい?」

 ──でも、それに慣れてしまって、失うことの方が怖くなっていた。

 今、ここからトウヤの元に飛び降りたら、彼は私を受け止めてくれるでしょうか。

 受け入れられることの怖さが、ここにできた新しい『家族』の気持ちによって中和されていく。クラレットは首を縦に振っていた。

 失いたくはない。
 しかし、隠していたくもない。

 クラレット自身、トウヤに君を信じるよと言われたときから彼を信じようと思った。なのに、信じ切れないで話せないままだ。

 これが弱さか、などと思っているうちにトウヤが屋根に登ってきて、今日も他愛のないおしゃべりを始める。こんな幼い話を聞いてくれる人間がいる、それが幸せだと知った。

 いつか、きっと、あなたに……。






護界召喚師はみんな、12話目以降こんな気持ちなんじゃないかなぁと思います。特に女の子の方は、信じたいのに信じ切れなくて葛藤しているかと。



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