青く突き抜けるような空。大通りの端に立ち並ぶ露店。
色とりどりの衣装を着た人々の中に――甲冑が居る。

「浮きすぎよね」
「あい」

ルーシィとハッピーはそれを離れた位置から眺めていた。町の一大イベントということで皆それなりに気合が入っているものの、全身を隠すような格好はナツ一人だけだった。一緒に行動していれば、目立つことこの上ない。
人々は彼をただの置物と認識しているようで、邪魔くさそうな顔をして避けている。ルーシィは身に着けた水色のミニドレスを撫でた。彼とは真逆に、軽くて動きやすい。触角然とした何かが付いているカチューシャ、謎のステッキ、オーガンジーの羽――完全に妖精だと満足して頷く。

「今ならあたし、ティターニアを名乗れるんじゃない?」
「どう見てもパックでしょ」
「……」

ハッピーが当たり前のように言ったイタズラ妖精の名に、ルーシィは口を噤んだ。不本意ながら、そっちの方がこの格好のイメージに合う。
スライムのような彼は見える範囲が少ないのか、ぬるぬると全身を動かした。

「ナツ、動かないね。パックルーシィ」
「パック言うな。まあ…やっぱり、重いんじゃない?あの格好じゃ、食べ歩きも出来ないだろうし」

着るときに手伝ったが、パーツパーツが重厚で、エルザの鎧が(性能は良いのだろうが)薄く思えるほどだった。

「どうしようか」
「犯人をナツのところにおびき寄せるしかないでしょ」

言ったと同時に、何かが割れる音が聞こえた。女性の悲鳴が半拍遅れて続く。

「パッシィ!」
「略すな!行くわよ!」

緑色のハッピーを抱えて、人混みを駆け抜ける。中身があるからまだマシだが、スライム状の表面にはしっかりとした形がない。滑りそうになる手で何度と無く抱え直しながら、ルーシィは叫んだ。

「自分で走りなさいよ、気持ち悪いわね!」
「何言ってんの、ルーシィ。この触感やみつきになるよ」
「そんなわけ…っ…そうかも?」
「でしょー」
「って、そうじゃなくて!飛びなさいよ!」
「あい……あれ?これ翼出せないや。背中がぬるぬるして」
「なんでそれを選んだの!?」

押し問答しているうちに、ルーシィとハッピーは音の現場に辿り着いた。カラフルな人々が遠巻きにする中、大きな男が鍬を持って立っている。はちきれそうなオーバーオール、頭には――

「コアラ?」
「うがぁあああ!」
「わ、ちょ、ちょっと!止めなさいよ!」

コアラの被り物をした男は、憎しみをぶつけるかのように酒樽に鍬を突き刺した。ぶしゃ、とぶどう酒が噴き出す。赤い雫が雨のように男の上に降り注ぐと同時に、巻き添えを食らった数人が悲鳴を上げて飛び退った。
ルーシィは慌てて、男の腕に星の大河を巻きつけた。しかし体重だけでなく力もそこそこ強いようで、びくともしない。
くっ、と彼女が唇を噛んだと同時に、男はルーシィに向かってきた。

「え?わっ!?」

彼女がその突進を避けると、男は後ろにあった酒樽に頭から突っ込んだ。しかしすぐさまゆらりと起き上がる。赤く染まった服は、色合いから血しぶきのようにも見えた。酒の匂いと猟奇的な印象をぷんぷんと撒き散らしている。
被り物がずれたか、赤い液体を垂らしたコアラの顔が、がくり、と傾いた。

「怖っ!」
「ルーシィ!こっち!」
「うん!」

緑色のスライムがうぞうぞと――恐らく手を上げて招いているのだろうが――動いているのに頷いて、ルーシィは走り出した。幸い、男はこちらを標的にしたようで、鍬を振り上げながら追ってくる。
後ろを窺いながらハッピーを拾って、大通りの方向へ目を移したとき、それは見えた。

ぐぉ、と大きく上がる――火柱。

何か、などと考えるのは無駄だった。そんなことより、自分はただ、あれを目指せば良い。
鋭く息を吸い込んで、ルーシィは走った。






そこに居るのは絶対的な信頼。


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