「払ってくから、先行っててくれ」とグレイが外を親指で示す。ぞろぞろと移動していく背中達を見ながら、ナツはハッピーを人差し指で小突いた。

「なんでいきなり奢るなんて言い出したんだよ?」
「だってオイラ、シャルルに奢りたかったんだ。最近プレゼントもしてないし」
「ほーほー」

もじもじする彼に相槌を打って、ナツはルーシィの席を見た。何枚か重ねられた、白い皿――

「なあグレイ。ルーシィの分、オレが払うからな」
「んあ?」

財布から札を取り出したグレイが首を傾げた。

「5人分割るんだから、誰の分、てねえだろ」
「気分の問題だよ。お前ジュビアの分払って良いから」
「あのなあ、オレは別に」
「さ、行くぞ!」
「聞けよ!?」

レジで店員が告げた合計は結構な金額だった。払った金には羽が生えているように見える。
ハッピーは誇らしげだったが、ナツはどっと疲れた心地がした。

「オレら持ち、て罰ゲームかよ」
「まさかこんな出費が待ち構えてるとはな。カナにやられた…あ?」

グレイが何かに気付いたような声を漏らした。同時に、ナツも閃く。

「モテモテ…」

まさか会計を持て、という意味だったのではないだろうか。確かにルーシィからもアプローチがあった。

「オレもう絶対、カナの占い信じねえ」
「てめえと同じなのは癪だが、オレもそう思ったよ」

使われて、オモチャにされて、金まで毟り取られた。店の前で楽しげに笑い合っている女達を見やって、二人同時に溜め息を吐く。
金輪際いかなる理由があろうとも、女子会には加わらない――ナツはそう財布に誓った。



ルーシィが幸せそうに笑った。

「おいしかったー」
「じゃあね、ルーちゃん」
「うん!」

レビィ達は彼女に手を振って、ギルドの方角へ歩き出した。ウェンディの足元でハッピーがシャルルと共にとてとてと短い足を動かしていく。ジュビアに誘われるまま、グレイも後に付いて行った。
ナツはその場に残ったルーシィに首を傾げた。

「ん?お前、帰るのか?」
「うん。今日は家で本の続き読もうと思って」
「……ふうん」

今日はこれでルーシィと会えなくなる。ナツは去っていく皆の背中を見てから、そわそわと爪先で石畳を擦った。

「なんか、言うことねえの?」

まだ少し。ほんの少しだけ――占いが気になっていた。一縷の望みをかけて、訊いてみる。
しかしルーシィは何のことだかわからない、という顔をしただけだった。

「え?」

落胆に気分どころか肩も下がる。ギルドに戻る気もなくなって、ナツは呻いた。

「……帰る」
「うん」

こくん、と頷いた拍子に跳ねた金髪を最後まで見ずに、背を向ける。すると、素っ頓狂な声がした。

「え、どこ行くの?」
「は?」
「あれ…あ、そか。あたしんちに帰るって言ってんのかと思った」

ルーシィは頬を掻いて困ったように笑った。

「そうよね、帰るって言ったら自分ちよね。あたし何言ってんだか」

ナツは咄嗟にマフラーを引き上げた。しかし抑えきれない嬉しさが、容易に外に漏れていく。

「…へへ」
「何笑って…え?」

自分の家とは逆方向に、ナツは足を踏み出した。目を丸くしたルーシィがおかしくて笑いそうになる。が、わざと不思議そうな顔をしてやった。こうすることが当たり前のように。

「どした?」
「…なんでもない」

来るの?とは訊いてこなかった。そのことも嬉しくて、ナツは彼女から見えないように緩んだ顔を背ける。

隣に並んできた気配が、肩に触れた。






たった一人に向けられたナツの期待と、何も知らないルーシィの当然。
お付き合いありがとうございます!



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