ダンス





ギルド内をぐるりと見回して、ナツは唸った。

「なんか面白ぇことねえかな」

正面ではグレイがコーヒーの入ったカップを傾けている。彼は面倒くさそうにナツを見やると「まあ、暇だな」と相槌を打った。

「仕事行くー?」
「そういう気分でもねえんだよな」

テーブルの上で首を傾げた相棒の尻尾を指で弾く。ひゅるりと逃げたそれは追わずに、ナツはんん、と伸びをした。

「暇だー。ルーシィどこ行ったんだよ。さっきまで居たよな?」
「女子会だとさ」
「女子会ぃ?カナ居るじゃねえか」
「あれはオッサンだろ」
「誰がオッサンだって?」

隣のテーブルからきっ、と睨まれる。マカオとワカバも居るそこは、まだ午前中だというのに相も変わらず酒臭い。
椅子に座ると酒樽では飲みにくいのだろう、カナはいつものようにテーブル上に胡座をかいていた。

「ケーキ食べ放題なんて、興味ないからね。酒飲み放題なら行くけど」
「オッサンか」
「オッサンだ」
「オッサンだね」

三人による怒涛のオッサン口撃にも、カナは平然と樽を傾けただけだった。ルーシィとは反応が違う。
ナツはテーブルに投げ出した両手に顎を乗せた。することがない。世界が灰色に見えるような日だ。
カナは樽を抱えたまま口角を上げた。

「アンタら、そんなに暇ならなんか占ってやろうか?」
「当たんねえだろ」
「舐めてくれるね」

カナは腰から一組のカードを取り出した。片手で器用にそれを切ると、腕を一振りして数枚をナツ達のテーブルに放り投げる。

「お前、酒放せよ」
「私に死ねと言ってる?お、やったね、あんたら、今日最高の運勢だよ」
「ホントか?」

カードに描かれた絵の意味はなんのことやらさっぱりだったが、ナツはそれらに身を乗り出した。青い耳と黒い髪が視界に入ってくる。
カナがくくっ、と喉の奥で笑った。

「恋愛運が、ね」
「はあ?」

ナツは眉を寄せた。そんなもん、と言いかけた彼に、彼女がにぃ、と口角を上げてみせる。

「モッテモテの一日だよ。残念だね、女の子少なくて」
「別に、どうでも良いし。なあ?」
「だよな」

つまらないとばかりの声音に、グレイも同意してくる。ナツはついでに興味ねえし、と口を尖らせてみせた。
本音ではない。モテモテと言われれば悪い気はしなかった。期待もする。
少し前ならば、ナツは本当に興味がなかった。何よりも強くなること、そしてイグニールを見付けることが重要であり、性別など気にならなかったはずだった。それがいつの間にか成長した、ということなのだろう。目標はそのままに、ナツは年――正確な年齢は不明だったが――相応に女性の目を意識するようになった。
しかしナツはつい最近まではその自覚はなく、周りも彼のことを安全パイと決め付けて接している節がある。そのため正面から受け止めきれず、自分はそう在るべきではない、そういったことは恥ずかしいという気持ちの方が強い。何より色恋沙汰に騒ぎ立てるなど、格好悪い、と思う。
結果、ナツは今、浮ついた自分を隠すことに必死になっている。グレイだって同じだろうとは思ったが、あえてツッコミはしなかった。諸刃の剣は、翳さない方が良い。
カナは新たにカードを一枚指に挟んで、ひらひらと振った。

「意中の人からもアプローチがあるよ」
「胃痛?」
「意中。好きな人ってこと」
「す…いねえもん、そんなの」

びく、と背筋が伸びる。落ち着かない話題に、ナツは首元のマフラーを摘まんで中に空気を入れた。
ハッピーがもじもじと両手を弄った。

「ね、ねえ。シャルル、どこ行ったの?」
「ウェンディと一緒だよ。女子会」

カナが彼の疑問にさらりと答えた。青い猫はそか、と呟くように言って、ナツの袖口をくい、と引っ張る。

「ナツ、オイラ行ってきて良い?」

その頭をぽふ、と撫でて、ナツは目を泳がせた。モテモテ。

「ケーキか」

グレイがゴホン、と咳払いする。

「あー…たまにはケーキも良いかもな」
「美味そうだよな」

示しあわせたわけではないが、ナツはグレイと同時に立ち上がった。カナが白々しく首を傾げる。

「ん?どうしたの?二人共」
「別に。散歩だよ。散歩のついで」
「そうそう。ケーキ食いに行くだけ」
「へえ」

肩で笑うカナに背を向けて、ナツはグレイとハッピーに並んで歩き出した。






モテたい。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -