「新しいの、買ったの?」
「お、おう」

つ、と彼女の細い指が、それ――右手首のリストバンドを指す。
包まれた血管が直接押されたように感じた。どくりとそこに、血液が集まる。
耐火性のこれは、ナツの知る限りあの露天商からしか購入できない。マグノリアに常駐しているわけではないので、買い換えたのは久しぶりだった。
ルーシィはぱっ、とナツの腕を解放した。

「隠さなくても良いのに」

反応が思っていたものと違う。ナツは落胆する自分を持ち上げようと、手首を彼女に向かって示した。

「良いだろ?」
「前のと変わんないわよ?」

確かに、色も形も素材も変わらない。
彼女の呆れたような表情に、ナツは怯んだ。これでは褒めてくれそうにない。

「でっ、でも……ルーシィは気付いたじゃねえか」
「まあ、あたしは……」

言いかけたルーシィは「ん?」と首を傾げた。リストバンドに、指を刺す。

「なんか厚みあるわね?」
「二重にしてんだよ」
「え、なんで?古いのもしてるってこと?」
「いあ、二個セットだから、これ」
「ふうん」

本当は、褒めてくれた時点で実は二個あるから、と外すつもりだった。
全てが、ルーシィの反応有りきの予定――

「何やってんだ、オレ……」
「え?何か言った?」
「んーん」

着けて欲しいなら、男らしく渡すべきだった。それが出来ない自分に、彼女からの言葉を待つ資格はない。
諦めて、一つ外す。それをポケットにねじ込もうとしたとき、ルーシィがてっ、と手のひらを向けてきた。

「一個ちょうだい」
「へ」
「良いじゃない、二つあるんだから。ちょうだい」
「な、なんでだ?」

欲しがる素振りなど見せていなかった。ルーシィの考えていることがわからない。

「こうすんの」

彼が左手に持っているのが目に入っているのかいないのか、彼女はナツの腕から直接リストバンドを奪い取った。右手首に着けて、ぐ、と拳を見せる。
そして、声のトーンを変えた。

「燃えてきた!ってね」
「……」
「ちょっと、何か反応してよ。恥ずかしいでしょ!」

かぁ、とルーシィの頬が赤くなる。
ナツは止まっていた息をぷはっ、と吐き出した。

「な、何よ」
「ルーシィって、期待を裏切らないよな」
「え?」

突然の思い付きで、こんなにもナツを幸福に出来る。裏切るどころか救い上げて、ナツが勝手に諦めたことを叱ってくれた気さえした。
無防備に首を傾げたルーシィは、ナツの思い描いた通りにリストバンドを着けている。真新しいそれはまだ伸縮性が高く、彼女の手首をぴたりと包む。まるで誂えたようだった。

「つか、モノマネって」
「似てたでしょ」

ルーシィは自慢げに胸を張った。
正直、全く似ていなかった。似ていなかった、が。

「ん……オレも、燃えてきた」

ナツは自分の腕にリストバンドを嵌め直して、ルーシィと右拳を軽くぶつけ合った。






「あの二人、燃えてるらしいから近付くなよ」「ジュビア、水かけてきましょうか」
お付き合いありがとうございます!



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