「もう一回、言ってみて?」
にこり、と笑んだその表情からは何も読み取れない。魔法を使っている気配はないのに、ミラジェーンは既にサタンソウルを発動させているように見えた。
隣のグレイが怯えるように肩を揺らしたのを視界に入れて、ナツは呻いた。
「だから、その」
「うん」
「あの…壊しました」
「何を?」
「えと、噴水を」
ミラジェーンは首を傾げた。眉が寄せられただけの鉄壁の笑顔で、「どうして?」と問う。
グレイが渋々と言った様子で口を開いた。
「いや、たまたまオレがぶらついてたときに、ナツの野郎が喧嘩売ってきて」
「売ってねえよ。お前だろ、そりゃ」
「オレが売ってたのは油だよ!」
「上手いこと言った、みてえな顔してんじゃねえ!」
がっ、とグレイの胸倉を掴む。同時に頭を鷲掴みにされて、ナツは奥歯を噛み締めた。
「何しやが…っ…」
一触即発の一歩奥。すでに喧嘩に突入していたつもりだったのだが。
頭を潰さんばかりのその手が、誰の物なのか理解して、ひゅ、と血の気が引く。よく見れば、同じように蒼白になったグレイの頭にも、その手が乗せられていた。ただ乗っているわけではないことは、彼の額に浮いてきた脂汗が教えてくれたが。
「お前達――」
「「……あい」」
怖いのはもう一人。しかもこっちは、容易に実力行使に出る。
震える声で返事をして、ナツはグレイと共に歯を食いしばった。