夢のなか





つまらない、と言い切ったところで、つまることはない。つまり、つまらないことを確認して再認識するだけだ。
しかしナツは言った。そこにもう一つ、意味があるからだ。

「つまんねえ」

ベッドに寝そべって、机に向かった背中を見つめる。ルーシィの意識をこちらに向かせること――それが出来るのなら、言葉には十分価値がある。
彼女は確かに振り返ってくれた。が、返答はナツの期待したものとは大きく違っていた。

「じゃあ帰れば」
「……つまんねえ」

枕を手繰り寄せて、顔を突っ伏す。文句でも言ってくるかと思ったが、無言でまた机に戻る気配がした。筆が乗っているのだろう。つまらない。

「ちぇ……ん?」

かさり、と、小さく耳元で音がした。枕カバーの中に、何かが入っている。

「何だ?」

むくりと起き上がって、カバーを探る。開け方は、

「ひぎゃああああ!?」
「うお!?」

ほとんどスライディングでもするように、ルーシィがベッドに飛び込んできた。枕を奪って、ころりと床に転がる。その手が、素早くカバーの中から何かを取り出したのが見えた。

「何隠した!?」
「なっ、なんでもないし!プライバシーの侵害よ!」
「見せろ!」
「やだ!やめてっ、ばかっ、ナツのばかっ!」
「は、あああ!?エロい言い方すんなよ!」
「してないわよ!?」

エロいのは体勢だった。ナツは目的に没頭して組み敷いてしまったルーシィから身体を離した。少し慌ててしまったために、どん、と背中がベッドにぶつかる。その衝撃が終わらない内に、顔に枕が飛んできた。

「ぶっ!?」

彼女はその隙に机に走って行った。がたがたと引き出しに何か(音からすると紙のようだった)を押し込む。

「ホントに、なんでもないからっ!」

ルーシィの顔は、茹で上がったように真っ赤だった。湯気でも出そうなそれを見て、ナツは肩を揺らした。頭の中に、ぴこん、と電球が点灯する。

「ふうん……わかった、それ、」
「あっ、あああ、あんたの写真なんかじゃないわよっ!」
「……へ?」

ナツが言おうとしたのは『家計簿』もしくは『財産表』だった。全く予想外の答えに、目が点になる。
ルーシィは自分の失言に気が付いたか、小さく音を――声とは言い難かった――発して、後ろ手に机の引き出しを押さえた。人体の限界を突き抜けるように、全身を赤らめる。

「あっ、えっ……今のは」
「オレの写真……って。それ、夢に出てきて欲しいって、やつだろ」

ルーシィの返事を待たずに、ナツは頬を掻いた。

「オレも、エルザの写真、入れたことある」
「え……?」
「でもアイツ、オレの夢ん中でも怪物みてーだったから。つーか、マジ怪物だった。でっかくて、黒くて……倒せなくて。夢でも倒せれば、なんて、やっぱダメだ」
「……ん?」
「現実に挑まねえと」

ぐ、と握った拳を見下ろして、ナツは頷いた。ルーシィに向かって、それを突き出す。

「戦いてえんなら、いつだって相手になってやるよ!」
「……ええと」
「ん?どした?」
「うん……まあ……。そういうことにしておく」

ルーシィは何故か大きく溜め息を吐いて、力が抜けたように椅子に座り込んだ。






2013.11.1-2013.12.1拍手お礼文。


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