「オレも狼男が良い」
「え?オルガも?」
「ほら、なんか耳が……良いだろ、それ」
もごもごと言い訳でもするように、オルガは言った。それに被せるように、ルーファスが口を挟む。
「私も、狼男が良いな」
「は?」
オルガはともかく、彼までそれを希望するとは思わなかった。
恥ずかしそうに頬を掻いて、彼は言い添えた。
「フリードが着なさそうだ」
「ああ……」
ルーファスはフリード・ジャスティーンに似ていたことを気にしていた。確かに彼が狼男を選択するとは思えない。
スティングが大きく頷いた。
「じゃあ狼男三人だな」
「え、それで良いのか?」
「好きなモン着りゃ良いじゃん」
バランスが偏るのは構わないらしい。吸血鬼以外にも他にもっとマシな仮装はないだろうかとローグが考えていると、ユキノが一歩踏み出した。
「じゃ、じゃあ、私も狼男になります!」
「は?」
「ユキノは紅一点なんだから、もうちょっと可愛いのでも」
「いえ!皆さんと一緒で!」
ローグは傾いた。ユキノの律儀さがこんな形で自分を苦しめることになるとは思わなかった。この流れでは。
「お前はどうする?」
罪のない笑顔で、スティングが訊いてくる。8つの瞳が(うち4つは完全に面白がっていた)向けられて、ローグは一つしかない答えを口にした。
「あんたらなんで全員狼男なの?」
「訊かないでくれ」
心底不思議そうな顔をしたルーシィ・ハートフィリアに、ローグは呻いた。ケープを被った彼女は、恐らく赤頭巾の仮装なのだろう。短いエプロンドレスを身に着け、手にはバスケットを持っていた。
「まあ良いわ。こっち来て、一緒にケーキ食べよ」
「はい!」
ユキノが嬉しそうに笑顔を返す。
首を回すと、オルガとルーファスは王様のようにふんぞり返る海賊ラクサスのところに居た。残念なことにフリードも狼男の仮装で、「ラクサスにふさわしい狼男は――」などとルーファスに詰め寄っている。目が据わっていて、すでにかなり飲んでいるようだった。
着くなり酒場の真ん中に突入して行ったスティングは、今は何故かナツとグレイ・フルバスターの拳に挟まれている。二人は似通ったピエロの格好をしていた。怒号の内容からして、被ったことで喧嘩になったらしい。
スティングが邪魔だなんだと怒られているのを遠巻きに、小さな毛玉――レクターだ――と包帯まみれの小さな塊――これはハッピーだろう――が居る。そこに合流すべきかと足を踏み出したところで、ルーシィから声をかけられた。
「放っときなさいよ。あんたもこっち……甘い物、食べれる?」
「ああ…」
「フロー、ケーキ、好きー!」
同じく毛玉と化したフロッシュが両手を上げる。ルーシィが黄色い声を出した。
「可愛いわねー!ハッピーとは大違い!」
「ハッピー様も可愛らしいと思いますが」
「生意気だもん、ハッピー」
ぱたぱたと手を振って、ルーシィは肩を竦めた。フロッシュを抱き上げて、ユキノの腕を引く。
「うわ、すっごい!ふわふわして気持ち良い!」
「そ、そうですか」
「さ、座って!このテーブル、真ん中の乱闘には巻き込まれにくいから。あ、ローグはこっち座って!挟まってみたい!」
「……」
乞われるまま彼女の隣に座る。「あはは、くすぐったい!」と笑い出したルーシィは、自分で希望したくせにすぐに立ち上がった。長椅子を跨ぐようにして抜け出して、「ケーキ持ってくるね!」と笑顔を見せる。
「……すごいギルドだな」
「はい」
「フローもそーもう」
騒がしいのはもちろんだが、空中に物が飛び交っている。座っているのは自分達だけではないのだが、落ち着いている人間は誰一人居ないように思えた。
喧騒の中心で光と熱が暴走する。ぎょっとする間もなく、そこに比喩ではない雷が落ちた。