反芻する。目の前が揺れる。リサーナが頬に手を伸ばしてくる。全てがスローモーションのように感じられた。
「私を、ナツのお嫁さんにして」
もしも。こんな状況でなければ頷いていたのだろうか。まっすぐに向けられた感情が、痛い。初恋が実ろうとしている。ずっとリサーナが好きだった。居なくなってからも、ずっと。その想いは嘘じゃないはずなのに。今、胸を、頭を占めるのは。
泣きながら向けた、小さな背中。
――いつから、こんなに。
「ルーシィ…」
唇を寄せようとしていたリサーナがぴたりと止まる。リサーナから表情が消えた。そのまま見詰め合って、ナツは真剣に言葉を声にする。
「…悪ぃ、できねぇ。今側に居るのも…もう一つも」
リサーナを押し戻して、頭を下げる。リサーナがそっと目を伏せる。次に開いたとき、瞳が赤く変化していた。
「!?」
「残念時間切れ。もう少しだったのに」
ゆらり、ベッドから立ち上がって服の裾をぱん、と払った。さっきまでここで苦しそうにしていた人物と同一とは思えない仕草に、ナツは半身に構える。
「誰だ、お前…?リサーナを…どこにやった!?」
「ここにいるじゃない」
「ふざけんな!」
「ふざけてないわよぉ。他人の記憶を読み取って別人格を再生する…それが私の得意技。あーあ、一週間もあればキスできると思ったのになぁ。恋人じゃなかったのね、あんた達」
外見はリサーナだが、声はすでに変わっていた。いや、それよりも。
「…!?リ、サーナは…」
「そ、死んでるわよ。さて。失敗しちゃったし長居は無用だわ」
足元に魔方陣が光る。この陣は昨日ウルティアの下で見たものと同じだった。
「待て!」
「じゃあね…!?」
慌てて伸ばした手が間に合わない、と思った瞬間、リサーナの外見をした女はぴしり、と固まったように動かなくなった。
「待たんか」
「じっちゃん!?」
いつの間にか扉が開いて、マスターが立っていた。
「聞きたいことがたくさんある」
その迫力にナツはぞわっと怖気立った。
禁忌魔法で自白を強要し、女は全てを洗いざらい吐いた。
滅竜魔導士の魔力を口から吸い取るためにリサーナの振りをしてギルドに潜入したこと。
ルーシィがリサーナの完全復活と騙されてついて行ったこと。
ゼレフの封印はすでに解かれていること。
――星霊王とルーシィをまとめてゼレフが取り込む計画であること。
「なんだよ、それ…!」
ナツは聞きながら頭がくらくらしてきた。とりあえずルーシィが危険であることだけを理解すると、女が吐き出した本拠地を口の中で刻み、立ち上がる。
「ハッピー!」
「あい!」
「お、おい、お前ら…!」
ナツとハッピーはMAXスピードで本拠地を目指す。ルーシィが星霊王を呼び出してしまったら、そこで全てが終了する。
間に合ってくれ…!