「どうして!?」
「そりゃこっちのセリフだっつの!」
ナツとハッピーは信じられないものでも見るかのように、手を見つめて唸っている。ルーシィは項垂れて額を押さえた。
「もう帰りたい……」
「くっそぉ、次こそ勝つぞ!」
「勝つぞー!」
マグノリアの夜に、二人の声が響いた。
カツカツとヒールで石畳を叩きながら、ルーシィは二人を睨みつけた。
「アンタら、弱すぎでしょ!」
「よっ、弱いとか言うな!傷付くだろ!」
ナツは言葉通り傷付いたのか、少しだけ目が潤んでいた。しかし泣きたいのはこっちも同じだ。同情など出来ない。
「弱いじゃない、実際!」
吐き捨てるように言って、ルーシィは足を止めた。もう三度目の、同じ曲がり角。
「今度こそ勝ってよ」
「おお、こてんぱんにしてやる!」
「覚悟してよ、ルーシィ!」
「こてんぱんて、どうやるの…」
ナツ達は気合いを入れるように怪しげな構えをとった。やる気の出ないルーシィはおざなりに右手を出す。
「はい、じゃーんけーん、」
「「ぽんっ!」」
チョキが二つ、グーが一つ。
「うあ…」
負けたナツとハッピーはもちろん、勝ったルーシィも肩を落とした。
曲がり角の度にじゃんけんをする――ルーシィが勝ったら右、ナツなら左、ハッピーだったら真っ直ぐ進む、それだけのシンプルなゲームだった。ギルドの帰りに偶然――かどうかはやや怪しいが――会ったナツ達から持ちかけられ、何回で帰れるか、初めのうちは楽しんでいたものの。
「さっきから同じとこぐるぐる回ってるだけじゃないの」
「だってルーシィが一人勝ちしてるんだもん」
「もんって…」
かわいこぶったナツの口調が実際可愛らしくて、ルーシィはぷぅ、と膨らんだ彼の頬を指で刺した。ぷすん、と空気の抜けた音がする。
「ねえ、もう止めない?」
「ヤダ。負けたままなんて、絶対ヤダ」
「オイラも!」
「なんか火ぃついてるし……」
こうなったら一回でも勝つまで解放してもらえそうにない。ルーシィは前方の曲がり角を溜め息と共に見やった。
「あたし、次、チョキ出すわ」
「うお、心理戦まで組み込むのか!?」
「ルーシィの鬼畜ー!」
「違うからね!?」
「作戦会議だ!」とひそひそし始める二人に不安になりながら、ゆっくりと首を回す。温かそうな色の明かりが点いた窓から、子供が不思議そうにこちらを見ていた。
「また来た、とか思われてるんだろうなあ」
「あん?」
「こっちの話」
ルーシィは軽く手を振って、ナツの興味を散らした。ほら、と十字路を示す。
「着いた」
「よし、じゃんけん、」
「「ぽん!」」
出た結果に、ナツとハッピーが膝を付いた。
「ぐぅ、裏の裏の、そのまた裏をかいてきやがった!」
「性格悪いよ、ルーシィ!」
「だから素直に受け取りなさいよ!」
力の抜けたチョキを下ろして、ルーシィは空を見上げた。生憎曇っていて、星も、月さえも見えない。
今日は早めにギルドを出て良かった。もっとも、時間があるからこそ、このゲームを始めたのだが。
のそのそと右に曲がるナツ達の背中は丸い。それに付いて歩きながら、ルーシィは長く息を吐き出した。