「へ、へえ。よくわかるな…さすがナツ、伊達にルーシィの近くに居るわけじゃないな」
「なんかずりぃな。オレなんて、鍛えてもあんま胸筋つかねえのに」
「一緒にするなよ。……ホント、また写真撮らせてもらわなきゃな」
「つか、オレこれ要らねえよ。すぐそこにルーシィ居るじゃねえか」
「お前は本当に、本当に、なんと言うか……羨ましい奴だよ」と暗い影を背負ったマックスと写真を置いて、ナツはカウンターに向かった。すとん、とルーシィの隣に座る。
「家賃」
「今月は大丈夫」
合言葉のように交わした会話に、ミラジェーンがくすりと笑う。彼女にファイアドリンクを注文して、ナツは頬杖を突いた。
ルーシィは透き通った茶色い液体が入ったグラスを左手で持ち、右手でストローを摘まんでいたずらに氷を沈めている。その様子を一頻り眺めた後、ナツは口を開いた。
「ルーシィ、お前、最近可愛くなったって言われてたぞ」
なんとなく、誰に、とは言わなかった。その理由は明確ではない。本当に、なんとなく、だ。
ルーシィは目を丸くした。
「え?そっ、そーお?あたしは元から可愛いんだけどね?」
「へー」
「きーっ!」
わざと抑揚のない声で言ってやると、予想通りルーシィは歯を剥いて悔しそうに足をばたつかせた。がしがしと氷がつつかれる。
全く、反応が良い。
こういうとこがカワイイんだよな、前からだけど。
抑えようとも思わない笑いが尖った犬歯を外気に触れさせる。ルーシィは面白い。面白くてカワイイ。カワイくて。
楽しい。
満足して、ナツは目の前に置かれたファイアドリンクを引き寄せた。ぐい、と中身を呷ると、ミラジェーンがすすす、と滑らかに横に移動していく。
彼女はにこりと微笑んだ。
「確かにルーシィ、前より可愛くなった気がするわね。恋でもしてるの?」
「ぶほっ!?」
「わあ!?」
吹き出したファイアドリンクが、さっきまでミラジェーンが居た空間を大きく燃やした。気管に入って、けほけほと咳き込む。
カウンターテーブルにしがみつくナツの背を、ルーシィが撫でてくれた。
「ちょっと、大丈夫?」
「けほっ、んん、こふっ」
ぐい、と口元を拭って、ナツは彼女に頷いた。ジョッキを覗き込んでみたが、吹き出した際巻き添えにしたか、炎のほの字も見当たらない。
ミラジェーンは「サービスね」ともう一杯ファイアドリンクを出してくれた。期待するような目で、ルーシィに身を乗り出す。
「で?恋してるの?」
「そっ、そんなんじゃっ」
「ホントに?」
ジョッキからはみ出た炎が空気に皺を寄せる。同様にナツも眉間に皺を作った。ほんのりと赤くなった気がするルーシィを、じっと見つめる。
「な、何よ」
怯んだように、彼女は唇を結んだ。整えられた爪。相変わらず長い睫毛。最近少し色味が変化した化粧。一週間ほど前から変わったシャンプーの匂い。一昨日カニの星霊に切ってもらったばかりだろう金髪の毛先――。
隅々まで観察して、ナツは頷いた。ミラジェーンに向けて、言う。
「変わってねえよ、ルーシィは」
「そう?」
カワイイのは元から。何も変わっていない。
だから彼女は恋などしていない。そんなもの、ルーシィには似合わない。
「ったく、何言ってんだ、ミラまで」
ナツはやれやれと肩を竦めたが、同時ににやりと口元で弧を描いた。やはりルーシィのことは自分が一番良くわかっているに違いない。
ルーシィはぷい、とそっぽを向いた。
「そうでしょうともね」
「ん?なに急に怒ってんだよ」
「怒ってない!」
口だけなのは明らかだった。頭を回らせて、彼女の不機嫌の原因を考える。
あ、そうか。
ナツはルーシィの肩にぽん、と手を置いた。
「変わったのは乳がでかくなったことくらいだよな」
ずがん、と顔面に拳がめり込んだ。