城で豪勢に開かれた婚約パーティで、ナツ王子は初めて自分の婚約者である隣国の姫に会いました。
「なあ」
「……」
俯いたまま、姫は顔を上げてくれません。むっとして、王子は彼女の手首を掴みました。
「無視すんなよ」
「あっち行って……て、くださいませんか」
「なんで。結婚、すんだろ。オレら」
「っ……わ、わたくし、は。出来れば、この婚約はなかったことにしたいのですが」
「へ?」
それはとんでもないことです。今もこうして国中を上げて、二人を祝福しているのです。
しかし王子は、姫の腕が小さく震えていることに気付きました。勇気を出して言っているようで、無理だと突っぱねるのは可哀想です。
ダンスホールは楽しそうに踊る男女で溢れています。王子は姫を誰もいないベランダへ連れ出すと、そっと小さな声で訊ねました。
「どうしてだ?」
「……あの、ナツ王子は、疑問に思わないのですか?」
「何を?」
「そりゃあ……お、わたくしを、です」
「んん?」
王子は考えることが苦手です。はっきり言ってくれないと、わかりません。
首を傾げると、姫は大きな溜め息を吐きました。
そして、それまでとは違う声で、言ったのです。
「オレ、男なんだけど」
「……は?」
「男」
ぐい、と、ドレスの胸元を広げて見せられて、王子は口を開けました。叫ぼうとしたところで、姫ががし、と王子の口を押さえます。
「大声出すなよ」
「お、お前……暗殺者か?グレイ姫は?」
「違う。正真正銘、本人だ」
「あ?」
もうわけがわかりません。王子は姫を頭の先からドレスの裾までじっくりと観察してみました。ドレスの形状からかなり身体の線は隠れていましたが、言われてみれば、男の体格です。
姫は言いました。
「オレが生まれた年は王子誕生が不吉だとか言われて、ずっと女として育てられてきたんだよ。まさか結婚までさせられるなんて」
「男って、男と結婚できんの?」
「出来るわけねえだろ。でもオレらの国が友好関係結びたいからって、政略結婚だよ、こんなもん。お前んとこの王様だって知ってんだろうが、オレらがとりあえず表面上結婚していれば良いって腹だ」
「おお、仮面夫婦だ」
「……お前、ずいぶんお気楽だな」
王子はにっこりと笑いました。これは好都合です。
「うん、結婚しようぜ」
「はあ?」
「結婚なんてしちまったら、もうダメかと思った。でも相手が男なら、別に問題ないよな」
王子には、好きな人が居たのです。