ルーシィが小さく咳払いした。

「あたしにしか温められない物って、何?」
「っ…」

ちゃんと聞いていたらしい。息を飲んで起き上がると、こちらを窺うような、上目遣いとぶつかる。

今か。今、言うべきか。

急に口内が渇いてきた。手に持ったままのカップに、口を付ける。

「ちょ、あたしの!」
「ちょっとくらい良いだろ」

ミルクの入った、角のない柔らかい味。今まで飲んだことのない風味だった。

「ふーん」
「どう?」
「まあ…腹に溜まりそう」
「味を訊いたんだけどね?」

ルーシィのソーサーにカップを置いてやると、彼女は無造作にそれに指を伸ばした。

「あっつ!」
「おわ、大丈夫か?」

温めすぎたかもしれない。カップの熱に驚いたのか、ルーシィは勢い良く手を引いた。跳ねた中身がその指を襲う。

「つ…」

顰めた顔も、潤んだ瞳も、ナツは見ていなかった。
ただ気が付いたときには、濡れたそれを掴まえて、ぺろりと舐め上げていた。

「ひゃ!?」
「あ」

行動は言葉よりも素直に表に出た。嬉しくなって、さらにぱくりと指を咥える。

「ちょ、ちょっと!?」
「美味い」
「な、なに言ってんの!?」

これでスムーズに伝えられる。もう言ったも同然だ。
にっ、とナツは笑った。

「好きだ」

言えた。やっと。

何かに勝ったような気持ちだった。あとはルーシィの口から発せられる『あたしも』を待つだけ。
しかし彼女の変化は、ナツの期待したものではなかった。

「あ…ミルクティね」
「うん?」

かくん、と項垂れるように、金髪が揺らぐ。これ見よがしな溜め息を吐いて、ルーシィはひょい、とナツから手を取り戻した。ピッチャーをナツのカップの上で傾ける。

「はいはい、気に入ったならどうぞ」
「は?」
「女の子の指舐めるなんて、アンタ考えなしにも程があるからね!」
「……」

ど真ん中に注がれた牛乳が、褐色の液体を濁らせていく。
掻き混ぜることすらせずに、ナツはそれを喉の奥に流し込んだ。






伝えられない伝わらない。


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