「あ、え!ご、ごめん!」
「ううん、良いよ。わかってたし」
空笑いの彼が差し出した手を、ルーシィは今度こそ握った。
「さよなら、ルーシィ。本当にごめん。でもルーシィのこと、好きだったよ」
「オレの方が好きだ」
きっかり三秒の沈黙――
振り返ったルーシィが信じられないものでも見るような顔をした。
「んだよ?」
「え…、え?え?」
ぷ、とウィルフレッドが吹き出した。
「うん、そうだね。きっと」
「きっとじゃねえよ、絶対だ」
「はは」
彼はルーシィの手を放したが、彼女はそのままの姿勢でぴくりとも動かない。
瞬きもしない彼女を覗き込んでから、ウィルフレッドはナツに目を向けた。
「ルーシィ、固まってるよ?」
「お前んときもこうだったか?」
「ううん、驚いてはいたけど」
「ふうん。なんでだよ」
彼と自分の何が違うと言うのか。
ナツはルーシィに好きだと言うことには抵抗がない。公言したウィルフレッドに対抗したい気持ちもあるが、ナツにとって、ルーシィへの想いは当たり前のことだ。気付かなかっただけで以前からそうだったのだから、口に出すか出さないかの違いだけだと、思う。
眉根を寄せると、ルーシィが弾かれたように反応した。
「だ、だってっ、ナツがそんな」
「思ってもみねえって?」
ナツはルーシィの頬を両手で挟んだ。彼女がしたようにではなく、優しく、しかし逃れられない程度に、強く――視線を、自分に固定する。
「お前、何見て生きてんの?」
「なっ…」
「オレはずっと、お前のこと好きだっただろ」
何かが急に変わったわけではない。だから驚くようなことではない。
ルーシィはナツの想いが今初めて届いたかのように、顔も耳も真っ赤になった。ナツが、唖然とするほどに。
「え…」
それを引き起こしたのが自分の言葉だと思うと、むず痒い。ぞわりと、何か生暖かいものが首筋を上がってきた。
「あ、うん。その…うん、まあ良いけど」
ナツが手を放して目を泳がせると、ウィルフレッドは空気を混ぜるように小さく咳をした。
「じゃあ、ナツ」
彼はさっぱりとしたような顔で握手を求めてきた。それに応じて、ナツは口角を上げる。
「じゃあな。また来いよ」
「うん、今度は彼女作って遊びに来るよ」
「おー」
「ハッピーも、またね」
「あい!元気でね!」
一応、ギルドの外まで見送りに出る。「他の人達にもよろしく言っておいてね」と笑うウィルフレッドに、ナツはこくりと頷いた。
今日も良い天気だった。まだ頂点には程遠い太陽と逆の方向に歩いていく背中に、ルーシィが息を吸う。
「ウィル!ありがとう!」
振り返った彼は一瞬何か言いたげな顔をしたが、黙ったまま手を振った。急ぐでもなく戻ってくるでもなく、ゆっくりと視界から消えていく。
見えなくなったところで、ナツは空に向けて両拳を振り上げた。
「よし」
「ナツ?」
「これからは、邪魔する奴は最初からグーで行く!」
「え?」
三角形など作らせない。相手が例え、誰であっても。
ナツはハッピーを跨いで、ルーシィの腕を引いた。