「ナツ!」
「気絶しただけだ」

右往左往するハッピーを宥めて、グレイはナツを引きずった。壁際に適当に転がして、急いでエルザの元に戻る。
案の定、彼女はウィルフレッドを締め上げそうな勢いで睨みをきかせていた。

「どういうことだ?」
「え、えと、その」
「おいエルザ、オレが代わる」

酷く疲れた心地で、グレイはエルザの肩を叩いた。彼女の尋問は圧力が強すぎる。慣れていないと萎縮するだけだ。
グレイの言葉にウィルフレッドは瞳を揺らした。それを察して、一応訊いてみる。

「ナツには言えないって言ったよな?オレには話せることか?」
「ナツじゃないなら…でも、ルーシィの個人的なことだから」

迷いを見せる彼に、グレイは目を細めた。

「人の居ねえとこ、行くか?」
「うん」

ほっとしたように、ウィルフレッドが頷く。素直な仕草に苦笑してから、グレイはルーシィを受け取ろうと片膝をついた。

「気ぃ失ってるだけだよな?これもナツに近寄ったからなのか?」
「そう…いうことになる、けど。どれくらいの距離で、とかはわからない」

グレイはルーシィに触れることは止めて、ウェンディに目を移した。特に治療している様子もないことを確認して、後ろで仁王立ちしていたエルザを見上げる。

「エルザとウェンディはルーシィを家に連れて帰ってくんねえか?ナツからどれだけ離せば良いのかわかんねえし」
「それは構わないが」
「詳しく聴いたら後で話す」

ごねるかと思ったが、エルザはあっさりと頷いてルーシィを抱え上げた。女の細腕とは思えない安定感から目を背けて、グレイはくい、と親指でギルドの入り口を指した。

「じゃあ、話、聴かせてもらうぜ」
「うん…」

どこか縋るような視線を受けて、グレイは眉を寄せた。



ギルドの裏なら、この時間は誰も居ない。
グレイは適当な岩の上に座って腕を組んだ。突っ立ったままのウィルフレッドが、緩やかな口調で話し出す。

「友人に貰った薬を、飲ませたんだ」
「薬…?」

彼はグレイの視線を確認するように頷いた。

「好意を持つ相手と接近すると、具合が悪くなる薬……でもまさかこんな、気を失うほどになるなんて」

呻くように言って、苦しそうな表情で項垂れる。
グレイは目を見開いた。

「ルーシィに?だよな?」
「うん…」
「……ルーシィが、ナツを、か」

予想と逆で衝撃的だ。これはギルド内で問い質さなくて正解だった、と小さく息を吐く。重くなった額を手で押さえて、グレイは先を促した。

「で?なんでそんなもん飲ませたんだよ?」

ウィルフレッドは懺悔をするように身体の前で両手を組み合わせた。

「僕、前に付き合ってた恋人に浮気されて……その時、友人に相談してその薬を貰ったんだ。浮気相手が誰か、突き止められるように」
「ヘビーだな」
「結果は僕の兄貴だった」

自嘲するような声音に、グレイは頭を掻いた。茶化せる話ではない。

「それから、恋をするのも怖くなって……久しぶりだったんだ、こんな楽しい気持ち。ルーシィを知れば知るほど、好きになって」

ウィルフレッドの手に、ぽたり、と透明な雫が落ちる。

「でも、もしルーシィが僕を受け入れてくれても、また心が離れていくのかなって思ったら――」

彼は声を震わせて、「薬を、飲み物に混ぜてたんだ」と告げた。






衝動的犯行タイプ。


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