「お前も、ルーシィのあの様子を見たら、近付こうとは思わないだろうが」
「くれぐれも気を付けろよ!」

エルザとグレイはそう言い残して、ギルドを出て行った。ナツ達が大した情報を持っていなかったため、もう一度現場に検証に戻るとのことだった。
一緒に来いと言われたのだが、ナツはそれを拒否した。ルーシィから離れた方が良いのはわかっているのだが、少しでも視界に入るところに居たかった。そうでないと不安で息も出来ない。

『目が覚めたときオレが居なかったら、ルーシィが自分のせいだって思うだろ』
『ああ?』
『んで、自分が居る限りオレが戻って来れない、とかって思うんだ』
『あー?』
『んでもって帰ってきたとき、ルーシィが居なくなってたらどうすんだよ。ごめんね、あたしのせいでー、なんて置手紙、残してよ。それでオレ達は一生会えなくなんのか?そんなん、ぜってぇ嫌だ!ルーシィのバカ!』
『お前の想像力すげえな』

『ルーシィが伝染ってきたんじゃね』と、グレイは肩を竦めていた。こういうときでなければ、嬉しい言葉だったかもしれない。以前ルーシィも、ナツに似てきたと言われた、と愚痴っていた。
あの時は同じチームだからな、と笑っていられたのに――。

大丈夫だ……すぐ、元に戻る。このままなんて、有り得ねえ。

脳内で何度も唱えて、焦燥を宥める。溜め息は吐き尽くした。

早く、ルーシィに会いたい。

「!」

願いが届いたか、それまでじっと睨みつけていた医務室の扉が開いた。ルーシィと、彼女の背を労わるように支えながらウィルフレッドが出てくる。彼女の腕には青い猫が居た。

「大丈夫か?」
「うん」

近くに居たマカオが心配そうに彼女に訊いた。ハッピーがにやりと笑う。

「気絶っていうより、寝てるだけだったよ」
「うっさい」
「お腹鳴ってたし」
「ひっ!?ちょ、ホントに!?」
「あい。ウィルも聞いたよね」
「あはは、可愛い音だったよ」
「やーめーてー!」

楽しそうだな。

ルーシィが起きたことによる安堵の上に、鬱々とした気分が塗り重なっていく。
ナツはがたん、と席を立った。ルーシィだけでなく、ギルド中の全員が注目してくる。

「…行かねえよ」

ナツは両手を上げて降参体勢をとった。ルーシィが眉を下げる。

「ナツ…なんか、その……ごめ、」
「ルーシィのせいじゃねえだろ!」

滅竜魔導士の聴覚には、この程度の距離は問題ない。ナツは彼女のために、声を張り上げた。

「こんなのすぐ治るって!エルザとグレイが解決方法、探してくるっつったし!」
「うん…そうね」
「しばらく家に行かねえけど、寂しがんなよ!」
「それはありがたいだけだからね!?」

ギルド内に笑いが起こる。離れていてもいつもの調子でやり取りできたことに、ナツはにぃ、と牙を見せた。

「あんま心配要らねえか」
「え?」
「あ、なんでもねえ!」

ばさ、とルーシィの手からハッピーが飛び立つ。こちらに向かってくる彼の翼越しに、ウィルフレッドが淡く笑うのが見えた。

「早くなんともなくなると良いね」
「うん、そうね」

気遣うような目線、声――彼は本当にこのままで良いとは思っていないようだ。

「ナツ?」
「んあ…ああ、なんでもねえよ、ハッピー」

彼の真意を疑った自分に気付いて、ぴくりと指先が震えた。






オレ…ヤな奴だ。


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