ナツがいつものようにカウンターに目をやると、そこには昨日会ったばかりのウィルフレッドが居た。
ルーシィも誰も、彼を追い出すようなことはなかった。昼過ぎまでギルドに居て彼女を中心に数人と会話していたようだが、ナツは関わらないようにしていた。ハッピーから「週刊ソーサラーで一目惚れしたんだって」と聞いた程度で、彼のことは全く知らない。
正直、姿を見たとき一日が暗く始まったような気がした。嫌う理由はないはずなのに、グレイ以上に苛立ちが募る。
くるり、とウィルフレッドが振り返った。

「やあ、おはよう」
「…おっす」

目が合ったなら仕方ない。ナツは軽く手を上げて近付いた。足元をちょこちょことハッピーが付いて来る。

「おはよ。ルーシィ、まだなんだねー」
「うん、早く来すぎちゃったよ」

ウィルフレッドは肩を竦めた。「早く会いたくて…なんて、こんなの初めてだ」とはにかんで、照れたように頭を掻く。
ナツは目を逸らした。

「なんか…楽しそうだな」
「うん。ルーシィと話してるの、すごく楽しいよ。思い切って来てみて良かった」
「そうか。そりゃ良かったな」

どうしてだか、彼と目が合わせられない。ナツはあちこちをきょろきょろ眺めながら言葉を探した。

「思ってたのと違うんじゃねえか?」
「あはは、そうかも。思ってたよりずっと可愛いよ」
「だろ。かわい…え?」

予想外の言葉に目が丸くなる。ウィルフレッドはほわほわと幸せそうに目を細めた。

「あんなに可愛い性格してるのに、彼氏居ないなんて信じられない。まあ僕は嬉しいんだけど」
「……ルーシィは面白い、じゃね?」
「面白い?んー、そうかな?」

ウィルフレッドは不思議そうな顔をした。「ナツは僕の知らないルーシィを知ってるんだね」と、悔しそうに口を尖らせる。しかしすぐにカウンターテーブルを叩いた。

「ね、よければ教えてよ」

あ、コイツ、悪い奴じゃねえ。

ナツはそれがなんだか嫌だった。足の関節がぎしりと軋む――動きが鈍い。
ハッピーがぴょん、とテーブルに乗った。

「ルーシィは面白いよ。脅かすとよく弾むんだ」
「人をボールみたいに言うな!」

びく、とナツの肩が弾んだ。斜め後ろに、ルーシィが仁王立ちしている。
彼女は半眼をハッピーに向けてから、ナツを上目遣いで見やった。

「おはよ」
「おう…」
「おはよう、ルーシィ。また来ちゃったよ」
「おはよう、ウィル」

なんだか気まずい。昨日、何故だか喧嘩のような雰囲気になってしまったことを思い出して、ナツは唇を噛んだ。ルーシィが悪いわけではない、と思う。だが、自分が悪かったわけでもない、はず。
ルーシィはすぅ、と息を吸うと、ナツの胸に白い包みを押し付けてきた。反射的に受け取って、ナツはぱちくり、と瞬きする。

「なんだ?」
「クッキー。焼いたの」

「なんか、ちょっと…そんな気分で」言いよどんで、ルーシィが目を泳がせる。言いたいことが読めて、ナツは肩の力を抜いた。
彼女も昨日のことを気にしていたのだろう。同じ気持ちが嬉しくなって、包みを揺らした。かさりと音がする。

「さんきゅ」
「うん…ハッピーの分も入ってるから」
「おう」
「やったぁ!ありがと、ルーシィ!」
「どういたしまして」
「良いなぁ」

ウィルフレッドが寂しそうに微笑んだ。その一言が素直に言えることに感心する。ナツはやらねえぞ、と言おうとして、

「はい」

ルーシィが包みをもう一つ出すのを見て、固まった。

「え、僕のもあるの!?」
「口に合うかわかんないけど」
「ありがとう!」

ナツは呆然と口を開いた。

「え、なんで?」
「なんでって」

ルーシィは困ったような顔をした。






オレらにだけじゃねえのかよ!?


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