がたん、と窓枠を踏んで、ナツは言った。

「ただいま」
「おかえり…って、違う!」

振り返った拍子にぴこ、と二つに括った金髪が揺れる。ルーシィはキーケースを腰に着けているところだった。

「また勝手に侵入して!」

きっ、と厳しい視線が向けられる。ナツは両手を上げて真顔になった。

「武装解除を要求する」
「武装!?って、鍵のこと!?」
「だっていつもだったらやるじゃねえか、飛び蹴りとか回し蹴りとか膝蹴りとか」
「…それ鍵が無くても出来るわよね」

「そしていつあたしがそんなことしたかしら」と耳を疑うようなとぼけ方をして、ルーシィはこめかみを押さえた。もしかしたら本気で言っているのかもしれない。ナツはそれには答えず、ソファにぼすりと身を沈ませた。
リボンを詰め込んでいたポケットには、今は華奢なネックレスが入っている――。
ハッピーは来ていない。それにほっとしながらナツは唇を湿らせた。

「あのな」
「何?」
「あー…」

取り出そうと思うだけで、肩がスムーズに動かない。少しだけ迷って、ナツは今日の出来事を初めから口にした。

「ミラにな、リボンもらったんだ」
「リボン?」

きょとん、とナツを見返して、ルーシィが促すように首を傾げる。そのいつも通りの様子にほっとすると、口が滑らかに動いた。

「お前にやろうと思ったんだけど、来る途中で怪我してる子供が居てよ。足の固定に使っちまった」
「へえ。良いことしたわね」
「おう。でな、お礼だってケーキもらったんだけど、それはエルザにカツアゲされて」
「はい?」
「欲しそうだったからやったんだよ。代わりにパン貰った」
「それはカツアゲじゃないわね…」

じとりとした視線をくれた後、ルーシィはナツを窺うように見た。

「エルザ、喜んでた?」
「うん」
「そう」

ふんわりと、ケーキよりも甘い笑みがルーシィに浮かぶ。想像していたよりもとろけるようなそれに、なぜだか気管をやられてナツは咳き込んだ。

「けほっ」
「大丈夫?」
「ん…んん」

ルーシィはナツの隣に腰を下ろした。さすさすと、片手で背中を撫でてくれる。
首元は涼しげで、飾りけはない。そこにポケットの中身を思い浮かべて、ナツはもう一度だけ咳をした。前髪を引っ張って、色を確認してみる。

同じ、か?同じのような気がすんな。

ルーシィは足を交差させて、くすりと笑った。

「それにしても、わらしべ長者みたいね」
「へ?なんだ、それ?」
「東洋の昔話よ。物々交換していって、一本の藁が最終的に家とかになっちゃうの」
「家!?そらすげえな!」

驚くナツに気を良くしたか、ルーシィは柔らかく微笑んだ。こちらに軽く身を乗り出して、キラキラと目を輝かせる。

「で?パンはどうしたの?」
「犬に食われた」
「そ、そお…」
「うん…」

頬を引き攣らせるルーシィの横で、ナツは目を泳がせた。






わらしべ長者パロ…と言うのだろうか、もしかして


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