ナツはマカオの横に座り直して、んん、と首を傾げた。
「オレがルーシィ拾ったのと、ロメオが何の関係あるんだ?」
「拾った言うな!」
「あ、ルーシィ」
噂をすれば影。二人の背後に、ルーシィが仁王立ちしていた。
マカオは嬉しそうに笑って、右隣――ナツとは反対側――をぽん、と叩く。
「おお、よし、ルーシィ、ここ座れ」
「はい?」
「良いから良いから。おじさんにちょっとお酌して」
「……まあ、良いけど」
マカオを挟んで、ナツがルーシィに苦虫を噛み潰したような顔を向けた。
「なんか今日、マカオ絡んでくんだよ」
「ふうん?」
ナツとルーシィの間にグレイ以外の男性が居ることなど珍しい。新鮮な光景にロメオがやや感心していると、ルーシィの手が酒の瓶を取った。
「はい、どうぞ」
「お、おっとっと……いやいや、こんな可愛い子に注いでもらうと一段と美味いな!」
「あら」
「わー、良かったなー」
「棒読み!?」
ナツをじとりと睨んでから、彼女はとん、と瓶をテーブルに戻した。
それを待って、マカオがルーシィの耳に顔を寄せた。しかし秘密の話というわけではないらしく、はっきりと聞き取れる声量で彼は告げる。
「なあルーシィ、ナツなんかやめて、ロメオの嫁にならねえ?」
「え?」
どくん、と心臓が脈打った。悪酔いしている。ロメオは止めようと慌てて立ち上がって、がつん、とスツールの支柱にくるぶしをぶつけた。
「っつ…!」
涙が滲んだが、目的地であるテーブルを睨みつける。マカオは上機嫌で拳を握っていた。
「今だったら年の差も縮まったし、ルーシィみたいな可愛い子が嫁さんに来てくれたら」
「オレも注いでやる」
くるり、と瓶がナツの手の中で一回転する。遠心力で中身は出ないそれをぱし、と掴んで、
「ぐほっ!?」
直接、マカオの口に差し込んだ。
「ごぼぶぼべっ!?」
「えーんりょすんなー。ほれほれ」
「ぼばべぶー!?」
「あっれー、酒が足りねーなー?カナに一樽分けてもらうかー?」
ナツの声には抑揚がなく顔は無表情だったが、それだけにふつふつとした怒りを感じる。こんな表面に出ないように感情を押さえ込む彼など、ロメオは初めて見た。ぽかん、と口が開く。
ナツ兄とルーシィ姉って――。
ナツは誰とでも壁がなく、人懐こい。確かにルーシィに対しては他の女性よりも距離を詰めていたようだが、それも同じチームだから仲が良いのかと思っていた。たびたび仲間達から揶揄されることはあったが彼がそれらに反応しているところも見たことがない。
まさか本当に、そんな関係だったとは。
父親は涙を流してもがいているが止めることも忘れて、ロメオは呆然と立ち尽くした。
「うわあ……」
ルーシィは引き攣り笑いを浮かべて、席を離れた。とことことロメオのところ――恐らくカウンターのミラジェーンの元へ――やってきて、両手を上げる。
「ったく、ナツってば。そんなにお酌したかったのかしら」
ロメオは瞬きを繰り返して、唐突に理解した。
一方通行。
「ルーシィ姉、鈍いって言われない?」
「はい?」
可愛らしく小首を傾げる、そのきょとん、とした双眸を見やって。
ロメオは肩で息を吐いた。