「ば、ばばばか!?」
「いててて!」

尻を掴み上げる格好だったのが気に食わなかったか、ルーシィがナツの首をあらぬ方向へと押しやる。彼女の身体から離れることで開けた視界の中、グレイの上でロキが空笑いをしながら手を振るのが見えた。ぐき、と首が悲鳴を上げる。
ナツはルーシィを軽く揺すって自分の腕の上に座らせた。両足を胸に抱くと、彼女はバランスを取るようにナツの頭に腕を回してくる。
どう考えても持久戦には適さない運び方だったが、ルーシィが大人しくなったのでナツはこれで良いことにした。これも修行になる、と自身を奮い立たせる。

「いっくぞぉおおお!」
「わ、わわわ」

今度は頭の横にクッションが出来たが、ナツは前だけ見つめて足を急がせた。グレイと一歩差まで迫る。

「ちっ!」

近付いてくるナツに気付いたか、グレイは舌打ちと同時に、ばっ、と服を脱ぎ捨てた。ばさばさとシャツが風に乗る。

「うお、アイツ軽量化を図ったぞ!」
「えーと…」
「本気出すのは良いけど、僕を担いだままは止めて!」

「グレイの脱衣術って段々進化してきてるわよね…」と感心したような声が頭上から聞こえる。脱衣術ってなんだ、とは思ったものの、ナツはそれどころじゃない、と走ることに集中した。明らかにグレイのスピードが上がっている。

「よし、ルーシィも脱げ!」
「ふざけんな!」
「手伝ってやっから!」

片手では届く範囲が限られる。ナツは手近なオーバーニーソックスをぐい、と引き下げた。

「へ、や、やめてぇえ!?」

抵抗のつもりか髪が引っ張られる。
ルーシィの悲鳴にロキががば、と頭を上げた。体勢を変えたせいで、グレイがよろける。

「グレイ、もっと速く!ナツを追い越さないと見えないよ!」
「助けなさいよぉおお!」
「じゃなかった、ナツ!僕のルーシィに何してんの!」
「あんたのじゃないー!」

街の大通りに響き渡ったルーシィの声が面白くて、ナツはにやりと笑った。気付けば通行人も店先の店員も、呆気に取られてこちらを見ている。
妖精の尻尾だ、とナツは叫びたくなった。こんなに騒がしくて楽しい、自分達をもっと知らしめたい。
ぐん、と速度を上げる。並んだグレイも悪態を吐きながらナツに倣った。並走する不本意さも、今はあまり感じない。
大聖堂はもうすぐそこだ。終わりが見えてきたことを少し残念に思いながらガラス張りの店の前を走ったとき、ナツはそれに気付いた。

「あ?」

ガラスに反射して、自分達が映っている。ルーシィはしっかりとナツに掴まっていて、影は一つ――まるで映画の救出劇から抜け出てきたようだった。このまま銅像にでもなりそうなほど、納まりが良い。

「身長差とか関係ねえな」
「え?」
「んにゃ…ラストスパートだ!しっかり掴まってろよ、ルーシィ!」
「うわ!?」

無意識に歩調が跳ねたせいで、少しロスした。ナツはグレイと睨み合いながら間近に迫った大聖堂へと駆け込んで――、

「よっしゃあ!オレの勝ちだ!」
「いや、オレが先だった!」
「大丈夫かい、ルーシィ?」
「あ、ありがと……」

下ろしたルーシィはロキに労わられて段差に腰掛けた。自分の勝利を確信するナツは同じように思っているだろうグレイと、額をぶつけ合う。

「やんのか、こらぁ!」
「上等じゃねえか、決着つけたらぁ!」
「ちょっと、さっさと……あれ?」

ルーシィが何か言いかけて固まった。ロキが首を傾げる。

「どうかしたの?」
「荷物は?」
「あ?」
「あ」

ナツはルーシィしか持ってきていない。グレイも、箱を持つ余裕はなかったはずだ。

キョトンとするロキ以外。
三人は無言で頬をひきつらせた。






見え見えのオチですみません。
お付き合いありがとうございます!


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