かけっこファイト





カウンターの前に、グレイとルーシィが居る。立ったままで何を話しているのか、彼女は時折ころころと笑っていた。少し神経を集中すれば内容も耳に届くだろうが、ナツはそれはせずにただ眉を寄せる。
整った外見と、誂えたような身長差。二人の様子が――正確には立ち姿が――完成された絵のように見えていたからだ。
それ自体も気に食わないがそう思った自分も気に入らない。それ以上に、グレイを見上げるルーシィの顎の角度が、自分のときとは全然違うことにむっとする。
しばらく睨んでいたが、二人ともナツに気付く気配がなかった。諦めて溜め息で苛立ちを逃がすと、新しい空気を大きく吸い込む。

「よし、喧嘩すっか」
「行ってらっしゃい」
「ん?来ねえの?」

長い尻尾をゆるりと振って、ハッピーは言った。

「もうすぐウェンディとシャルルが来るはずなんだ」

期待した目をギルドの入り口に向けたまま、小さな青い頭は振り向かない。ナツは口を尖らせてカウンターに足を向けた。
ふわり。揺れたルーシィの髪から彼女の匂いがする。グレイがそれに包まれるように立っていることに気付いて、ナツは唸った。

「おい」
「あ、ナツ」
「んだ、てめえ。何ガンくれてんだよ」
「ああ?見てるだけだろが。目ぇ悪いんじゃねえの?」
「悪いのはてめえの頭だろが」
「んだと?」

ギリギリと睨み合う二人に、ルーシィが呆れたように肩を竦めた。

「あんたら仲良いわね」
「「良くねえ!」」

台本でもあるかのように、それはぴったりと重なった。目の下がひくりと引き攣る。
ルーシィは面白そうに笑って、しかし彼らからの反撃に備えたか一歩後退った。その後ろに、マスターが何やら箱を持って近付いてくる。
彼は小さな身体を揺するようにして歩いてきて、ナツ達を見るなり「おお」と声を上げた。

「お前達、ちょうど良いところに」
「んあ?」
「あー、ナツかグレイ、どちらでも良いから、ちと頼まれてくれんかのう」

一抱えほどの箱をカウンターに乗せて、ぽん、と叩いた。

「これを大聖堂まで届けてくれんか」
「大聖堂?」
「なんだ、それ」
「祭事用魔導具じゃ。修理を依頼されとっての」

マスターは人畜無害そうな笑みを浮かべて、ナツとグレイを見比べた。ナツが口を開く前に、グレイが腰に手を当てる。

「よし、オレが行くぜ、じーさん。ナツに任せてたら日が暮れちまう」
「んだと!?」

正直行きたいとは思わないが、売られた喧嘩は全財産で買う主義だ。ナツは先ほどまでの苛立ちも一緒くたにぶつけて、グレイに噛み付いた。

「勝負すっか!?」
「望むところだよ!」

沸点の低さは似たり寄ったり――グレイは不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ。

「てめえよりゃ早く着けるよ!」
「そりゃこっちのセリフだっての!」

ルーシィが溜め息を吐くのを視界の端で捉える。「止めなくても良いんですか?」「届けてくれるなら構わん」とマスターとぼそぼそ会話する彼女の腕を、ナツはがっ、と引き寄せた。






あ、やべ。もうオチが見える。


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